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47.俊輔のキス*真奈
嫌いだった。
俊輔とのキス。
――嫌なのに。嫌なはずなのに。
ずっと、してほしいなんて、思ってしまいそうで。
頭が真っ白になって、俊輔とのキスしか、この世界に無いみたいな。
そんなキスが、大嫌いだったんだけど。
「……ん、ン……っ」
舌が絡んで、ぞくん、と腰に震えが走る。
「……っん」
びく、と体が震えると、俊輔の手が、オレの項に触れて、より俊輔に引き寄せられて、深く、重なる。
「……んん、ん」
唾液が混ざり合って、こく、と飲み込むけれど、口の端を伝う。
もう、なんか――熱い。
「……っん、ぅ」
苦しくて、ぎゅっと閉じていた瞳を開くと、すでに涙で視界が滲んでる。でも、ふと、気付いてオレを見つめた俊輔の瞳と見つめ合ってしまって、どき、と心臓が。
――心臓だけじゃなくて、なんかもう、体全部が、ドキドキしてて、熱くて、ぼうっとしてくる。
「しゅ――」
名前を呼ぼうと開いた唇は、また塞がれて、抱き寄せられる。
「……っん、ぁ」
舌を吸われて、上がった息で喘ぐみたいな声が。
自分で聞こえて、恥ずかしくて、かぁぁっとますます顔が熱くなって、なんか耳鳴りがしてくるみたいな感覚。
がく、と脚が崩れても、分かってたみたいに支えられてて、キスが続く。
「……ん、ふ、」
ゆっくり外されるだけで、声が漏れる。
俊輔の指が頬に触れて、優しく撫でると、ぴく、と体が震えた。
「――悪い」
……悪い……??
…………何で、「悪い」……??
ぼうっとした頭で考えて、そのまま、俊輔を見上げる。
涙で潤みまくってるからなのか、俊輔が、ふ、と瞳を細めて笑った。親指で、目の端を拭ってくれる。
少しはっきりした視界に映る俊輔を見つめて、オレは思わず首を傾げた。
「……悪い、て……?」
「――いや……」
俊輔はなんだかきまりが悪そうに、オレを見下ろして、苦笑した。
「――止まんなくなりそうだったから……なんとなくな」
「――――」
止まんなくなりそうって。
――……それって、止まらなかったら……。
俊輔は、まだ、オレのこと……そう、したいってこと?
……嫌なことしないって、言ったから、我慢、してるってこと?
なんか全然いつも普通で……。
……そういうこと、したくなさそうに、見えてて。
「あの……」
オレが俊輔をじっと見つめると、ん? と少しだけ首を傾けてくる。
……なんて聞けばいいんだろうか。
「――あの……止まらなかったら……」
「――――」
止まらなかったら、俊輔はどうしたいの?
そう聞こうと思った時、だった。
背中のドアが、どんどん、と叩かれた。
「俊輔、居る?」
瀬戸さんの声だ。俊輔の。ち、という小さな舌打ち。
俊輔はオレの腕を掴んで、ドアの前からどかして、自分の後ろに隠すようにして、そのドアを開けた。
「んだよ? ――つか、風呂入ったんじゃねえの」
「肌のケア用品貸して」
「はあ??」
「全部忘れた」
「……もう部屋はいっていいから好きに使えよ」
「冷たいなー、説明してよ」
はー。と俊輔はため息をついた。
「おやすみ、真奈」
オレにそう言って、そのままドアを閉めて、出て行った。
「ごめんね、真奈くん、おやすみーまた明日」
瀬戸さんの声が聞こえて、すぐ、俊輔の声。
「何でここ分かったんだよ」
「西条さんに聞いたにきまってる」
「……つか、化粧水とか、説明しなくても分かるし」
「また色んなケア用品あるんじゃないの? 高そうなやつ」
「そんなに種類無いっつの……」
ため息交じりの、俊輔の声が、遠ざかっていく。
オレは、鍵を閉めて。
そのまま、ベッドに腰かけて。
後ろに、ぱたん、と倒れ込んだ。
唇――なんかまだ、キスの感覚が、残ってる。
頭、包んでた、俊輔の手の、熱いのとか。
――見つめられる、瞳とか。
――――ドキドキ、する。
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