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第五章 1.目が合わせられない*真奈
翌朝。静かな部屋で目覚めた。
俊輔のベッドじゃないことに、違和感を感じる――そんな自分が不思議。
着替えて、とりあえず次の課題に関わる本をベッドに座って読んでいたら、ドアがノックされた。ドアを開けると、西条さんだった。挨拶しながら中に入ってくる。
「良く眠れましたか?」
「あ、はい」
……ていうのは、嘘かな。俊輔のキスが残ってて、なんか。眠れなかった。
言えないし。
「朝食なんですが……お二人と一緒で構いませんか?」
「はい」
そうかな、と思ってたから、とりあえずすぐに頷いた。
「昨日、夜、若がここを訪ねた後、瑛貴さんに若がどこか聞かれて、さあ、と教えなかったら、真奈さんの部屋を聞かれてしまいまして」
「あ」
「お教えしないのもおかしいと思って、教えたんですが、大丈夫でしたか?」
「あ、はい……」
ええと。大丈夫でしたって、どういう意味で聞いてるんだろう。昨日は、俊輔と、キスしてた時だった、とは言えず、小さく首を振っていると。
「今朝、若には、教えなくていい、と言われました」
クスクス笑って西条さんが言うので、あ、と苦笑で固まるしかできない。
「若の部屋でご用意してますので、お先にどうぞ。パンを焼いて持っていきますね」
そう言われて、俊輔の部屋に向かう。
いつも、俊輔の部屋は一階の奥だし、あまり上の階にはこないから、なんだか階段を下りるというのが、ちょっと不思議。上にも階段が続いてて、部屋が色々あるみたい。
西条さんたち、働いてる人たちも住んでる訳だし……上の方は寮みたいな感じなのかな? そういえば、俊輔のお父さんも昔はここに居たらしいけど……会社に近いところにマンションがあるとか言ってたけど。全然帰ってこないんだな。……って、帰ってきたら、オレのこと、ますます何て言うんだろ。
……うう。帰ってこないでほしいかも。
なんだかちょっと憂鬱な気持ちになりながら、俊輔の部屋をノックして、中に入った。
「おはよ、真奈くん」
真っ先に言うのは、瑛貴さん。俊輔は、ちらっとオレを見て、ちょっと頷いただけ。
「おはようございます」
二人に言う感じで言って、中に入る。
コーヒーのいい匂い。食事がテーブルに並んでいて、俊輔の隣が開いていた。「座れよ」と言われて、俊輔の隣に腰かける。同時に、西条さんが部屋に入ってきて、パンをテーブルに置いた。
「若、今日は午前中は、社長からの用事があります」
「――ああ」
俊輔は、ため息交じりで返事をした。分かっている、て感じ。予定されてたのかな。……てことは、瑛貴さんと残るのかな。オレ。
「瑛貴は?」
「あーオレは本屋に行きたくて。何階建てもある本屋、駅前にあるだろ」
「ああ、ある」
「――真奈くんも行く?」
不意に瑛貴さんから話を振られる。
「本屋さんは好きなんですけど……すみません、課題があるので」
「そっか。分かった」
駅前にある、おいしいパン屋さんが、とか、西条さんがおいしいお店の情報を伝えたりしてて、意外と普通な世間話みたいなので、朝食は終わった。
「真奈、ここで勉強するか?」
「ううん。昨日のまま、部屋にあるから、そのままむこうでしてようかな……」
「私も今日は若についていくので、真奈さん、コーヒーは淹れて置いていきますね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「昼前には、帰りますから」
はい、と頷くと、「西条さん、真奈くんの執事みたいですね」と瑛貴さんが言う。西条さんは、なんかさすがで、何も言わず瑛貴さんを見つめると、ふ、と微笑むだけで終わらせた。
――余計なこと言わず、微笑むだけっていう手もあるんだなぁ……。
でもあれは、オレにはできない技な気がする……。
食事を終えたら、もう俊輔は出かけると言うし、その車に瑛貴さんも乗って駅に行くって言うので、玄関で皆を送ってから、二階の部屋に戻った。
――昨日のキスの感覚が。
俊輔を見てると戻ってきてしまって。
しかも向かい側に瑛貴さんがいるし。俊輔を見るにはすぐ近くだし。
なんか、ドキドキして、あんまり目を、合わせられなかった。
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