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5.理由*俊輔

 瑛貴が出て行くと、和義が部屋の中に入ってきた。  テーブルの上の、食器などを重ねて持つと、ドアの方へ歩きそこで止まって振り返った。 「食事のご用意をして良くなったら、お呼び下さい」  そう言うと、返事も聞かずにすぐに部屋を出て行った。 「――――……」  すぐに言葉が出てこない。何と言うべきか、よく分からない。それは真奈も同じみたいで、二人きりの部屋で、お互い黙ったまま、少しの時間が経った。 「……真奈」  オレが呼ぶと、ぴく、とそれに反応して、オレを見上げてくる。  少し困ったような顔をしている。それでも、まっすぐな。  泣かせても、傷つけても――――何だか、本当にまっすぐで、綺麗な瞳だな、と心底思う。 「……瑛貴が言ったことは、結構的を射てたと思う。お前をここに居させて、出さずに、オレだけしかいない状態にした。毎日のように抱いて、正常に考えられてなかっただろうと思う」 「……そう、だけど……」 「その状況だと、お前がオレを頼るしかなかったろうと、思う」 「……でも、オレ」 「最後まで聞けよ」  眉を寄せて見上げてくる真奈の言葉を静かに遮ると、真奈はきゅ、と唇を噛んで黙った。   「お前が、どんなに考えたって言っても、かなり特殊な状況だったのは確かだ」  それはそうだと思うのか、真奈は少し俯く。  ――――……そう。今まで、全部。間違ってた。だから。 「……真奈」 「……」 「オレは――――自分でも分からなかったけど……」  そう言って止まったオレに、真奈が少し顔を上げて、首を傾げて見つめてくる。オレは、覚悟を決めて、口を開いた。 「……友達の為に、あんなところに乗り込んできて、代わりになってもいいとか言うお前が……多分、気に入ったんだと、思う」 「え」  オレの言葉に、真奈はその瞳をさらに大きくした。 「……馬鹿だなと思ったし、甘っちょろくてムカついたはずだったんだが……今となると、気に入ったから……連れ帰ったんだと、思う。お前の瞳が、まっすぐで――でもあの時は、気に入ったとかは、分からなかった」 「――――……」 「……よく分からなくて、苛ついて――でも、しばらく過ごすうちに、お前がここにいるのが当たり前になって……大事に思ってるのを自覚、した時に、梨花のことがあって――――拒否されて、自制できずに、お前を傷つけた」  真奈は、ただ黙ったまま、瞬きを繰り返している。  オレは――なんとなく考えていたことを、言葉にするうちに、改めて自分の気持ちを、納得していくような感覚だった。 「……お前がどういう理由でも、戻りたいと言ってくれたから、それをいいことに連れ帰ってきて――――抱かないって決めたのに、我慢できずに触れたり……自分でも、なにやってんだか、とは思ってた。だから、瑛貴の言葉は、かなり耳が痛いっつうか……」  こっからどう話せばいいのか、ちょっと分かんねえな。と、少し黙ったオレを、真奈は、じっと見上げてきた。 「……オレ、が、ここに居る理由って……何?」 「……理由?」  理由ってどういう意味だ、と真奈を見つめ返すと。 「前は……そういうことする、ため……かなって思ってて……」 「――――……」 「……じゃあ今は、なんでオレは、ここにいるんだろうって……思ってた」  ……前は、セックスするためだけだと思ってて、で、今は、それをしないから、何でだか分かんねえ、って、ことか。  ――――……あーなんか……。  ほんと、オレって……どうしようもないっつーか……。 「真奈、少し、いいか」 「……?」  小さく頷いて不思議そうな真奈を引き寄せて、腕の中に、抱き締める。 「――――……違う。抱きたいから、とかじゃない」    それだけはまず否定しようと思って、言った後、言葉が続かない。  何て言うのが、いいのか、考えていると。  真奈が、なんだかオズオズとした動作で手を動かして、オレの腰のあたりの服を掴んだ。  何も、ちゃんと言えないオレに、このタイミングで、触れてくる真奈のこと。  ――――……なんか……  今感じている、こういう感覚。    ……可愛い、としか。  思ってない、気がする。  

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