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6.解ける*俊輔

 笑った顔が可愛いとか、抱いてる間に可愛いとか、何度も思った。  ……どうしたってオレを憎んでいるだろう真奈に、そんな感情を持ったってしょうがないとも思って、否定しようとしていた気がする。  こんな時になっても、今までにオレがしていたことが邪魔をして、何と伝えてもしょうがない気がしてくる。でも、今伝えないといけないってのは、なんとなく、分かってる。 「……確かに最初は、身体の関係だけでいいって思ってたかもしれない。ひどいことをしてる自覚は当然あったから、お前はオレを憎んでるだろうとも、思ってた」  真奈は、俯いたまま、聞いてる。  ――――この言い方、あってんのか、オレ?  今は、間違えたらいけない気がするのに、正しい言葉が分からない。ため息をつきそうなのをぐっとこらえる。 「あれ以外、お前と、どう過ごせばいいか分からなかった。……つか、あれはお前にとったら最悪だっただろうけど」  そう言うと、真奈がふっとオレを見上げてきた。  抱き締めた腕の中から、見上げられると。今更なのに、胸がどく、と音を立てた。 「……あの」  真奈がオレを見つめて、一言漏らし、そのまま、また黙った。 「オレも、最初の頃はほんとに嫌だったけど……でも、俊輔、たまに優しい時もあって……だからほんとにオレ、意味が分からなくて」 「ん。そうだろうな」 「ほんとに……どう思われてるのか、どう過ごしたらいいのか全然分かんない時に、ここから出ることになって……結局、戻ってきたけど」  真奈はゆっくりと言葉を吐いて、そこで少し黙ってから、また口を開いた。 「でも今、少し分かった気がする。どう接していいか分からないの、俊輔もオレも、おんなじだったのかもって……」  そんな風に言って見つめてくる真奈のセリフの意味を考えるが、なんだか自然と眉が寄ってしまう。 「――同じではないだろ。お前は、ひどいことされてた方だし……」  何と言ったらいいのか分からず、そこで言葉が途切れた。  すると、真奈はじっとオレを見つめて、それから、ふ、と微笑した。 「でも、本当にひどいことしかされてなかったら……オレは、ここに戻ってきてない。……それは、分かってるよ、オレ」 「ひどいことしか、されてなかったろ」 「んん……うーん。まあそういう風に見えることも確かにあったけど……」  少し唸りながら黙った真奈は、クスクス笑い始めた。間にあった緊張した雰囲気が、その笑いで、ふっと解けた。  こいつの、そういう感じが――多分オレは、たまんないんだと、なんとなく思う。  オレは、真奈を、もう一度、腕の中に抱き締めた。 「……そうなんだけどね。でも。ひどいことばかりじゃなかったよ?」  真奈の声は、少し笑いを含んでて、柔らかい。  ……胸の奥の方、締め付けられるみたいな感覚がある。 (2025/5/5)

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