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7.覚悟*俊輔

「――お前、お人よしって、言われないか?」  思わず言ってしまったら、真奈は腕の中から、オレを見上げて、少し笑った。 「凌馬さんに、言われた気がする」 「――――」 「……まあ。友達とかにも、言われたことはあるような……」  じっと見上げてくる真奈に、だろうな、と苦笑してしまう。  出会いだって――こいつがお人よしじゃ無ければありえなかったことだと分かってる。  見つめ合っていた瞳をそらして俯いて、真奈は、小さな声で言った。 「俊輔、オレさ、ここに居ていいの……?」 「――当たり前、だろ?」  とっさに答えていた。  すると、少しだけ唇を噛んでから、真奈は、静かに言った。 「立場とか……あるでしょ……オレはβだし。色々あるのもなんとなくは分かる」 「――――」 「俊輔……」  俯いたまま、少しの間があった。 「……オレと、どう、したいの?」  まっすぐな質問。でも、俯いたままなのが、真奈の戸惑いを表してるんだと思う。  ――αとβの関係が、世に無いとは言わないが、本能で惹かれあうのがαとΩとされているし、そこらへんは実際、否定はできない。  ――今、思ってることを、ちゃんと言葉にして言わなきゃいけないのは、分かってる。でも、口にしたら、全部が嘘みたいになる気がする。   「言葉が……必要なのは、分かってる」 「――――」 「だけど……思うこと全部は言えない。考えないといけないことが色々あるのも、事実だ」  親父とか家とか、おそらく相当面倒なこともある。  ……真奈の気持ちもオレの気持ちも――まだ手探りで。はっきり言葉にできることなんて無い気がする。  軽く、伝えていいのかも。分からない。 「でも――真奈」 「……ん」 「……大事に、したい」  そう言うと、俯いていた真奈が、ゆっくりと、オレを見上げた。  少し泣きそうな顔をして。それでも、少し、笑った。 「……確かに、今、俊輔がいう言葉、全部そのままは信じられないかも……オレも……まだはっきり、言えないし」  そう言って少し黙って、それから。 「じゃあ、言葉じゃなくていいから……側に居てくれたら、いい」 「――――」 「オレは、ちゃんと考えて……自分の意志で、戻ってきたんだから。今は、無理やりじゃ、ないから」  ――真奈は、オレなんかより、よっぽど強い。  いつも……そう、思う。 「……離れるつもりは、ねぇよ」  感情があふれ出しそうな気がして、あえて静かに答える。 「傷つけたことも、苦しめたことも、なかったことにはできない。けど、その分も、ちゃんと向き合ってく。 少しずつでも……お前の嫌な記憶が薄れて、許してもらえるように――するから」  すると、真奈は、うん、と頷いてから―――ふわ、と、笑った。 「もう、少しずつ、薄れてるから」  そんなことをゆっくりした口調で言って、オレを見上げて微笑む。 「オレ、昔から、嫌なことは忘れちゃうタイプだからね」 「――――」  ――ほんと、かなわねぇな、と思う。  でもおかげで、自分の中の覚悟は、出来た気がする。

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