145 / 147
9.瑛貴と
一通りあれこれ聞いてくる瑛貴に、話せるとこだけ話して、大分落ち着いた頃、大きく息を吸ってから、オレに視線を流してくる。
「でも、梨花のことはお前が悪いからな」
「……分かってる」
「あんなに執着してんのを知った上で、手を出したんだから」
「――――全然そこまで考えてなかった。あいつも、相手してくれるだけでいい、みたいなこと言ってたし」
ため息をつきながらそう言うと、瑛貴は呆れたように、天を仰いで、背もたれに寄りかかった。
「俊輔への執着とか好意とか――お前、興味なさすぎだよ」
「…………」
なにか言い返そうと思ったが、うまい言葉が見つからなくて黙ると、瑛貴は苦笑した。
「壱成はなにか言ってないのか?」
「いっせい……小野田壱成か?」
久しぶりに聞いた名前に、首を傾げる。
一族がたくさんあつまるパーティーで会う、親戚だ。
「あいつが何?」
オレの質問に、瑛貴は信じられない、といった顔でオレを見た。
「……壱成は、梨花に執着してる。知らないのか?」
「――ああ。そういえば昔、睨まれたことあったな……」
瑛貴は大きなため息をもう一度。
「梨花の言うことなら結構無茶も聞くし……お前とおんなじ、どっかの族のリーダーみたいなこと、してるからな」
「ふうん……まあ、そんな接点もねえけど。住んでるところが遠いし」
「梨花とは連絡とってるらしいぞ」
「……なんで瑛貴は知ってんの? まったくそんな情報、ねえけど」
逆に知りすぎてて怖いわ。
ちら、と瑛貴を見て、酒を煽ると。
「オレは別にあいつらとは因縁ないから。集まりとかで会った時は話す」
「……面倒見いい、お兄さんてこと?」
「別に面倒は見てない」
肩を竦めて、瑛貴は考え深げに顎に触れる。
「梨花が無茶しないように……壱成にむちゃさせないように。あんまり刺激すんなよ。お前に、というより、真奈くんに被害がいったら可哀想だ」
「…………」
その言葉を聞いて、返す言葉が思い浮かばない。
ふ、と苦笑してしまう。
「何笑ってる?」
「……また、真奈のことを守りたい奴が増えたな、と思って」
「――どういう意味だ?」
「……和義と、オレのダチと、瑛貴。真奈を守ってやれって、言ってくる」
クックッ、と笑いが零れて、何だか止まらない。
そんなオレを見ていた瑛貴は「もう一人いるだろ」と笑った。
もう一人? 首を傾げると、瑛貴が面白そうに笑った。
「自分が筆頭だろ?」
思わず、肩を竦めて見せた。
「でもあれだな……」
「……?」
「――おじさんには言うのか?」
言いにくそうに聞いてくる瑛貴に、即座に首を振った。
「親父には、言わない」
「……ずっと言わない訳にはいかないだろ」
「まあ……そうだけど」
「急に帰ってきたらどうするんだ?」
「もう何年も帰ってきてないし。親父に会うのはどっかの集まりだけだから」
「今は誰か女性のとこ?」
「そうなんじゃないか? この家に連れ込まなきゃ、どうでもいい」
「まあ、そうだな……」
瑛貴は苦笑しながら頷く。
「真奈くんはβだからな……Ωなら結婚してって選択肢もあったんだろうけど……」
そこまで言って、瑛貴は黙った。
そのまま口に手を当て、しばらく黙ってる。
「――真奈くんが良いなら、いっそΩに……」
「いいわけないだろ」
オレは、一瞬で止めて、瑛貴を睨みつけた。瑛貴は、苦笑しながら息をつく。
「……成功率もまだ低いし、あえてΩになりたい奴なんてそう居ないからな」
「分かってるなら言うな。間違っても真奈に言うなよな」
「悪かったよ。睨むなって。ほら」
ワインの瓶を持って、差し出してくる。グラスを傾けて、それを受けて、ぐぃ、と飲み干した。
(2025/6/14)
ともだちにシェアしよう!

