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9.瑛貴と

 一通りあれこれ聞いてくる瑛貴に、話せるとこだけ話して、大分落ち着いた頃、大きく息を吸ってから、オレに視線を流してくる。 「でも、梨花のことはお前が悪いからな」 「……分かってる」 「あんなに執着してんのを知った上で、手を出したんだから」 「――――全然そこまで考えてなかった。あいつも、相手してくれるだけでいい、みたいなこと言ってたし」  ため息をつきながらそう言うと、瑛貴は呆れたように、天を仰いで、背もたれに寄りかかった。 「俊輔への執着とか好意とか――お前、興味なさすぎだよ」 「…………」  なにか言い返そうと思ったが、うまい言葉が見つからなくて黙ると、瑛貴は苦笑した。 「壱成はなにか言ってないのか?」 「いっせい……小野田壱成か?」  久しぶりに聞いた名前に、首を傾げる。  一族がたくさんあつまるパーティーで会う、親戚だ。 「あいつが何?」  オレの質問に、瑛貴は信じられない、といった顔でオレを見た。 「……壱成は、梨花に執着してる。知らないのか?」 「――ああ。そういえば昔、睨まれたことあったな……」  瑛貴は大きなため息をもう一度。 「梨花の言うことなら結構無茶も聞くし……お前とおんなじ、どっかの族のリーダーみたいなこと、してるからな」 「ふうん……まあ、そんな接点もねえけど。住んでるところが遠いし」 「梨花とは連絡とってるらしいぞ」 「……なんで瑛貴は知ってんの? まったくそんな情報、ねえけど」  逆に知りすぎてて怖いわ。  ちら、と瑛貴を見て、酒を煽ると。 「オレは別にあいつらとは因縁ないから。集まりとかで会った時は話す」 「……面倒見いい、お兄さんてこと?」 「別に面倒は見てない」  肩を竦めて、瑛貴は考え深げに顎に触れる。 「梨花が無茶しないように……壱成にむちゃさせないように。あんまり刺激すんなよ。お前に、というより、真奈くんに被害がいったら可哀想だ」 「…………」  その言葉を聞いて、返す言葉が思い浮かばない。  ふ、と苦笑してしまう。 「何笑ってる?」 「……また、真奈のことを守りたい奴が増えたな、と思って」 「――どういう意味だ?」 「……和義と、オレのダチと、瑛貴。真奈を守ってやれって、言ってくる」  クックッ、と笑いが零れて、何だか止まらない。  そんなオレを見ていた瑛貴は「もう一人いるだろ」と笑った。  もう一人? 首を傾げると、瑛貴が面白そうに笑った。 「自分が筆頭だろ?」  思わず、肩を竦めて見せた。 「でもあれだな……」 「……?」 「――おじさんには言うのか?」  言いにくそうに聞いてくる瑛貴に、即座に首を振った。 「親父には、言わない」 「……ずっと言わない訳にはいかないだろ」 「まあ……そうだけど」 「急に帰ってきたらどうするんだ?」 「もう何年も帰ってきてないし。親父に会うのはどっかの集まりだけだから」 「今は誰か女性のとこ?」 「そうなんじゃないか? この家に連れ込まなきゃ、どうでもいい」 「まあ、そうだな……」  瑛貴は苦笑しながら頷く。 「真奈くんはβだからな……Ωなら結婚してって選択肢もあったんだろうけど……」  そこまで言って、瑛貴は黙った。  そのまま口に手を当て、しばらく黙ってる。 「――真奈くんが良いなら、いっそΩに……」 「いいわけないだろ」  オレは、一瞬で止めて、瑛貴を睨みつけた。瑛貴は、苦笑しながら息をつく。 「……成功率もまだ低いし、あえてΩになりたい奴なんてそう居ないからな」 「分かってるなら言うな。間違っても真奈に言うなよな」 「悪かったよ。睨むなって。ほら」  ワインの瓶を持って、差し出してくる。グラスを傾けて、それを受けて、ぐぃ、と飲み干した。     (2025/6/14)

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