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10.境界*俊輔

「まぁでも……なんにしても、お前のその執着が何かを、ちゃんと自覚してからだな」 「――」 「一時の盛り上がった感情なんかで、人の人生、狂わせちゃだめだからな。まして、βなんだから」 「……分かってる」  その後、だいぶ飲んでから瑛貴が部屋に戻っていった。  和義が片付けにきて、部屋を出て行ってから、オレは、洗面所に向かった。  歯を磨きながら、鏡越しに自分を覗き込む──酔っているのか、少し赤い。  少し飲み過ぎたな……。  タオルで口元を拭い、乱れた前髪を指で整えた。  洗面所の明かりを落とし、寝室のドアを静かに開ける。  カーテン越しに月明かりが差すベッドで、真奈が静かに寝息を立てていた。  ベッドに腰かけ、振り返る。  真奈がΩだったら――。  一瞬よぎった考えに、思考が止まる。考えたら、だめだ。  βの真奈を、それでも側に置きたかった。  無理矢理で始まって、でも真奈が、こういう奴だから、今は少し、違う関係になった気がする。  真奈が、こういう、奴だから。  ――普通なら、あんな風に連れて来られて、あんなこと、されて。  オレの元に帰ってこようなんて、間違っても思わない。……真奈だからだ。  そういう感じの奴だからきっと――オレも、こんなに……。  起きないように、そっと、真奈の髪の毛に触れる。  さら、とした手触り。  少し前までは、無理やり起こして、無理やり抱いた。  今は、そうしたいとは思わない。幸せそうに眠っているのを起こしたくはない。  けれど――やっぱり、触れたい。  真奈がどう乱れて、抱きついてくるかも分かってる。どうしても、触れて乱して、抱きつかせたい。  優しくして、真奈が微笑んでる姿も、そのまま守りたいと思うが、それとはまったく反対の感情が、ある。  ――触れても、受け入れるかもしれない。真奈は。  嫌なことはしないと言ったし、そのつもりだったけれど、真奈は帰ってきたところで、その覚悟はしてきてる気がする。  キスしても拒まない。  逆にその瞳に、熱が浮かぶ。  嫌なことはしないというのが、ひどいことをしないだと思っていたのかもな。ただ、触れるというのは、許容していたのかも。  でもよく分からない。  ――強い快楽で、むりやり自分のモノにして、いいのか。  オレは別に、体だけが欲しいんじゃない。  体から無理矢理手にいれたら、本当に欲しいものは、手に入らない気がする。――でも。  触れたくなるのは、自然と浮かぶ衝動だから、どうしようもねえな。  ふ、と苦笑が浮かぶ。  隣に入り、仰向けに横になった。  静かな寝息が、聞こえてくる。ふと、視線を向けると、のどかな寝顔が目に映る。  父は、どっかのいいとこのオメガと結婚させて、後を継がせたいんだろうが。――どっちもごめんだ。    とりあえず、親父にはバラさないっつーのと。  梨花がらみの壱成に注意か。  もう、真奈に、きつい思いはさせずに守りたい。  今までのオレは、ただ欲しいから、手を伸ばした。伸ばさずにいられなかった。でも、今は――守りたい。  守りたいのに、同じ衝動が湧く。  支配したいのと、愛情と、でもすることは、同じことだ。  オレの中では、今は明確に違うけど、愛と支配は、きっと紙一重だ。今まで、全然分からなかった。  真奈にとっては、同じ行為だ。  どこで、境目をつければいいのか。  手をそっとその頬に触れさせる。  髪に触れるよりも、触れてる感じがする。柔らかい、肌。  抱き寄せて、キスして、服を脱がせて――おそらく、受け入れる気がする。そういう風に、してしまった。  全部、自分がしてきたことだ。  真奈は何も悪くない。  何のために、真奈がここにいるか、か。  真奈の言葉を思い出しながら、そのまま引き寄せて、腕の中に閉じ込める。  ――これでも、かなり幸せな、気がする。  柄じゃねーな……。  ふ、と息をついて。顎に触れてる柔らかい髪に思わず口元を緩ませながら。  そのまま、眠りについた。  (2025/10/12)

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