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11.拍子抜けとか*真奈

 ベッドに入って、しばらくぐっすり、眠っていた。  瑛貴さんが来たのも、知らない。  不意に、目が覚めた。  ぱっちり、突然。  何で起きたんだろう、と思ったけど、少しして水音が聞こえてきたから、多分、俊輔が洗面所に行く音で目が覚めたのかな。少し眠りが浅くなっていたのかも。  ――話し声は何も聞こえないから、瑛貴さんは部屋に帰ったのかな。    しばらくして、俊輔が部屋に入ってきた。分かったけど、寝たふりを続ける。起きてしまったら、どんな顔をしたらいいか、分からないから。  ベッドが軋む音がした。腰かけたのが分かる。  少しして、ふわ、と髪の毛に触れられた。ビクつきそうになったけど、どうやらバレずに済んだみたい。  嘘みたいに、優しい触れ方。  ――触れてるかどうかも怪しいみたいな。  本当に、薄い外側一枚にだけ触れてるみたいな、そんな感じ。  胸、ドキドキしてる。聞こえないかな、ドキドキ……。  まぶた、ぴくぴくしてないかな。暗いから大丈夫かな。  ――――このまま。  組み敷かれて、抱かれたり……するかな。  ――――キスは、嫌じゃないって、受け入れた。  キスしてたら止められなくなりそうって、俊輔は言ってた。止められなかったら、どうするのって聞きかけて、途中になってるけど。  俊輔は、オレとまだ、そういうこと、したいのかな。そこは、話せなかったし、よく分からない。  大事にしたいって言ってくれて……抱くためじゃないって、言ってくれて。  オレは、ただ、一緒に居ればいいのかな。    どう接していいか分からなかったのは、オレも俊輔も同じみたいだった。  ――オレのこと、大事に、しようと思ってくれてるのも、今は、分かる。  というか――。  こんな、触れてるかも微かにしか分からないような、触れ方。  大事に、してなかったら、しないと思う。  なんだか、きゅ、と胸が締め付けられた瞬間。  俊輔の手は離れた。  ぎし、と小さくベッドが軋み、俊輔は隣に寝転がった。  あ、よかった。  ……バレなかった。もうここまで来たらそのまま寝るしかない。  オレはもはや顔の筋肉を動かさないことだけ集中。……できてるかよく分かんないけど。  そしたら、今度は、頬に触れられた。  すり、と、また薄く表面をなぞるみたいに触れてくる。  ――抱き寄せられて、キスされて、俊輔を受け入れること。  もうずっと、当たり前みたいに、続いてきたこと。  しばらくされてないけど、触れられたらすぐ、受け入れられる気がする。  する、かな。今日。  ドキドキ、していると。ぐい、と引かれて、ドキドキが最高潮に達した次の瞬間。その腕の中に、抱え込まれた。  そっと、優しく。ただ、抱き締めるだけ。  ――――えっと……。  オレの気持ちは。  拍子抜け。  とか、いう奴ではないだろうか。  髪を撫でられて、頬を撫でられて。抱き締められて。  なんか、めちゃくちゃ大事そうにしてくれてるのは分かるのだけれど。  ―――抱かれないのかぁ。  なんて。思っちゃったよ……。  むしろ、オレが拒絶されてる感じがするかも。  なんて意味が分からない。  少しすると、お酒が入ってるからかな。だんだん呼吸が浅くなってきて。 俊輔はすう、と寝息を立て始めた。ふ。と。顔が緩む。  最初はあんな怖くてさ。毎日、ほんと怖くて。めちゃくちゃされてさ。  あの日、もう絶対無理だって、思ったのに。  あれから、もう人が変わったみたいに、優しくなって。  キスですら、聞いてくるし……キスが激しくなると、悪い、とか言うしさ。  こんなに優しく触れて、抱き締めて、すやすや寝ちゃうなんてさ。  もう、違う人みたい。俊輔。  ――オレは、そっと、背中に腕をまわして。  ぴと、と手を張り付かせた。  俊輔が抱いてくれないなんて。  思っちゃったじゃん。もう。    意味分かんないし。もう。  くっついて、すり、と頬を寄せる。  俊輔の、穏やかな寝息。  なんか、胸が。きゅ、と締め付けられる。  広い部屋の広いベッドで、こんなにくっついて――――……。  よくわかんないよ、もう……。  そんな風に思いながらも。  オレは。  ふ、と何でか、口元が緩んで。  ……そのまま、うとうとと、眠りについた。       (2025/10/15)

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