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狼は白薔薇を愛する(2)

「ええと」  もそもそとメリーが起き上がると、ベッドを降りてさっき鏡を取り出した箱を引っ張り出す。ぱちんと指をならすと、箱を開き、中から瓶を取り出した。  俺は微笑むと瓶を受け取り、真っ赤な顔のメリーに言う。 「あなたはやっぱり頭がいい」  メリーをベッドにひっぱりあげる。お互いに膝をついて向かい合った。もっと慌ててもいいと思うのだが、不思議と心は凪いでいた。  メリーの腰帯のバックルを外す。外した瞬間に帯がしゅるりと落ちてメリーの周りに落ちた。微かに開いた前から手を差し入れて細い肩から服を後ろに落とす。  現れた胸が小鳥のようにどきどきと速く動いているのが見えた。呼吸する度に肌が艶やかに色づいていく。  下穿きに手を添えてするりと脱がせると、もだもだとメリーが足を動かして脱がせるのを手伝ってくれた。  全裸になった白い肌を余すところなく見つめる。  恥ずかしさに初々しく染まった肌。俺を欲してもたげた欲望をじっと見ると、肌がますます赤くなる。 「ロー?」  震える声が不安そうに俺を呼ぶ。  ああ、この人はこれほどまでに美しいというのに、俺がこの身体を気に入らないのではないかと案じているのだ。 「とてもきれいだ」  感極まった声で囁くと、メリーが息をついて嬉しそうに頷いだ。  俺は頭から上着を脱ぐと、ズボンに結んでいた腰帯を解いた。寄り添って来たメリーが白い指で震えながらズボンにかかって下穿きごと引き降ろす。  俺は脚を抜いて服をベッドから下に落とした。  メリーが自分よりもかなり大きい俺を見て息を呑む。 「怖くありませんか?」  銀の髪がふるふると震えて俺にすがりついた。  子犬を撫でるように頭を撫でながら、今はピンク色に染まった身体をベッドに横たえた。  全身をくまなく舐め上げる。  細かい生肉を犬が皿から舐め取るように、丹念に白い身体を舌でなぞると、メリーがふるふると震えながら声をあげる。  滑らかなその肌はバラの高貴な香りを漂わせている。それに酔いながら、オオカミ族特有の大きな犬歯で傷つかない様に肌を撫でると、ひときわ大きな嬌声があがった。目の前のメリーの欲望が震えて、透明な涙を流し始める。 「気持ちいいですか?」  メリーが大きな目を欲望に潤ませてこくこくと頷く。  その可愛らしい姿に理性の糸が切れそうになる。  愛に満ちたまなざしや震える体、漂う薔薇の香りのどの一つでも俺の理性を吹っ飛ばす力があったけれど、おれは慎重に理性を保った。  何もかもが初めての、この人を乱暴に扱ってはいけない。  メリーのくれた香油はとろりとしていて、薔薇の匂いがした。指につけるとねばつくそれを慎重に指にすりつけると、メリーの中に潜り込ませた。 「ん……」  眉を顰めたメリーに不安になった。 「痛いですか?」 「痛く……ない……」  そっと中を探ると、メリーの口から快楽の声が漏れた。  ほっとしながら指を引き抜くと、抜いた指にまた香油を垂らして両手に伸ばすと、足を大きく開いたメリーの身体の間に座り込み、その白い足を自分の上に乗せると、濡れた指でメリーの欲望に触れる。  そして、もう片方の指を先程より柔らかくなった中に押し込んで、優しく丹念に中を探る。  オオカミの教えはエルフにも通じるらしい。探るごとに、細い身体が跳ねて、とりとめのない言葉が美しい唇から漏れる。 「ああ……そこ、ん……だめだ。触らな……あ」  香油を更に馴染ませる為に指を引き抜くと、腰が揺れて甲高い声が漏れる。 「やあっ!だめ……」 「触ってはだめ、ですか?」  囁くと、白い身体から泣き声が漏れる。 「や……やっ」  くねる身体をうつぶせにして、背中を舌で嬲りながら、ほんの少しの気を手に集めて、はじけんばかりの欲望に指を走らせた。びくびくと白い身体が震える。  どうしていいかわからないというように、メリーが俺を涙目で見た。 「ロー……ロー……ぬかないで」  小さな声が懇願する。俺は微笑むと再び濡れた指を使った。 中には欲望のつぼがあると教わった通りに中を探り続けると、特に感度のいい部分に触れた。俺がそこを撫でると、メリーが叫ぶ。楽器のように啼く様に喜びを感じながら、そこを何度も撫でた。 「な、な……に……?そ、れ……」  戸惑い、打ち震えながらメリーが俺を見る。 「メリーの気持ちいい場所を見つけた……と思うんです」  俺がにっこりと微笑むと、メリーが呆けたように俺を見つめた。指を動かすと、快楽に顔が歪む。 「あ……っ」  自ら快楽を求めるように、白い腰が揺れる。  絶え間なく刺激しながら、前を握る指を早めると、目を閉じて快楽に溺れた唇が喘ぐ。 「ああ……すご……あっ……やあっ……い……ちゃ」  軽い身体をひっくり返すと、深いキスをする。  ぶるぶると震えながらすべてを吐き出す細い身体。  お互いの身体にかかったぬるつきをこすり合わせながら、快感にあえぐ顔を見下ろす。  ぼんやりとうるんだ瞳を見つめて微笑むと、メリーが溜め息をついた。 「すっごい……気持ちよかった」  俺が頷くとメリーが俺の首に手を回す。 「もっと、する……よね?」 「ここから先は、メリーは辛いかもしれない」  水色の目が俺を睨みつける。俺は弱々しく微笑んだ。 「あなたを苦しませたくないんです」  俺が切なげに息を吐くと、ねっとりと舌が口にねじ込まれて、俺の唾液を掠め取る。 「ローが……全部欲しい」  水色の瞳がゆらめく水面のように輝く。その下に輝く愛と欲望が、俺を刺激した。オオカミは……愛に弱い。そして、メリーはひどく俺を愛している。  背筋が何かに撫でられたように粟立つ。 「そんな風に煽ってはだめだ」  メリーが艶然と微笑んだ。 「愛して欲しいんだ。全部欲しい。痛くても構わない。ローが知りたいんだ……教えてくれるよね?」  煽り立てるように薔薇の香りが強くなる。  発情香を操れるようになったのだろうか?  それはとてもやっかいだと鈍くなった頭の隅で思う。 「あなたを乱暴に扱いたくない」  頭を振って離れようとする俺に、メリーが蔦のように絡みつく。 「愛しているんだよ。ロー」  囁く声と身体を這うキスに理性が千切れそうになるのを感じる。 「やめてください。メリー」 「ローは……本当に素敵だ」  息が止まるようなキスをされる。 「狂うようにわたしを求めている」  挑むような目に最後の何かを手放してしまう。  覚束ない手で、自分に香油を塗りこんだ。  荒い息を吐きながら、折れそうな細い身体を組み敷く。  柔らかくほぐした場所に自らをあてがうと、愛しい人の瞳を覗き込む。  軽く擦りつけると、メリーが嬉しくて堪らないというように蕩けるような笑みを浮かべた。その顔を見下ろしながら、少しずつ中に分け入る。  悲鳴のような喘ぎ声、痛みを感じているのかと不安になって身体を離そうとすると、泣き声が聞こえる。 「やだ、やめないで。お願いだ」  その声が全身を粟立たせる。もうどんなに懇願されてもやめることは出来ないだろう。気がつくと激しく突き入れ、身体を動かしていた。  身体の下でメリーが痛みと喜びの混ざった喘ぎ声を出している。止めたいと思うのに、欲望に朦朧とした頭は言うことを聞いてくれなかった。獣じみた呻き声をあげながら甘い身体を貪る。 「メリー!」  最後の瞬間に名を呼んで、突き上げた。細い身体が震えて、細い悲鳴と共に温かいものが俺達の間に溢れた。メリーが達したのを感じて、俺も最後の激しい一突きを細い身体に突き刺すと自分を解き放った  荒い息が収まると同時に理性が戻って来て、叫びたくなるような絶望に心が引き裂かれる。自らをメリーの身体から引き抜くと震える手で抱き寄せた。  壊れた人形のような細い肢体。知らない間に噛んでしまったのだろう、あちこちに俺の犬歯の刺さった赤い跡がある。 「メリー?」  震える声で呼ぶと、銀色のまつげが蝶のように瞬いて、ゆっくりと水色の瞳が開かれる。夢を見るような瞳が、俺を見た。安堵に涙が零れそうになる。 「俺は理性をなくしてしまった」  自責の念に呻くように呟くと、メリーが大きく目を見開いてそれから笑み崩れる。くすくすと笑いながら汗ばんだ髪を顔から払う。 「それは素晴らしいね」 「素晴らしくなんかないでしょう。あなたは初めてだったのに、俺は獣のように振舞った」 「とても素晴らしいよ」  メリーが俺の肩に手を回すと、ぶら下がるようにしてキスをしてくる。 「痛くなかったんですか?」  なじるように言うと、メリーの目が泳いで、顔が赤くなる。 「うん……ちょっと痛かったかな?まぁ……かなり痛かった気はするんだけど。わたしは痛みに弱い方だしね。  でも、その後は……よかったよね?わたしは……よかったんだけど。  ローはそうでもなかった?」

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