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狼は白薔薇を愛する(3)

 首をひねりながら、心配そうにメリーが尋ねる。 「どんなに俺が喜んでいたか見ましたよね?」 「うん。でもほら……男は演技が出来るとか言うよね」 「出来るのは女です」 「ああ、そうなのか。そうだよね」  メリーがうんうんと頷いて、声を立てて笑う。 「男は欲望を隠せないでしょう?」 「そうだよね」  ぱっと明るく顔を輝かせてメリーがオレに飛びつく。  そして、うめき声をあげるところりと転がった。 「め、メリー?」 「う~ん。している間はよかったんだけど、終わると痛いみたいだ」 「大丈夫ですか?」 「またしたら、痛くなくなると思う?」  無邪気にメリーが微笑んで、期待に溢れた目で俺を見た。 「男は女より負担がかかりますから、最初から何度もは無理です」  俺が首を振ってきっぱりと言うと、メリーはつまらなそうに溜め息をついた。そして、ぬるつく身体に気づいて呟いた。 「お風呂に入りたい」  歯形のついた身体を他の人に晒すつもりだろうか?  そもそもこの容姿で、他の男と共同の風呂に入っているのか?  俺の戸惑ったような視線に、メリーが眉を寄せる。それから何か思いついたように微笑むと言った。 「ああ。わたしの部屋には風呂があるんだ」  ほっとして、部屋を見回す。 「どこにあるか教えてくれれば俺がやります。」  メリーが気だるげに指差した扉を開けると、猫足のついた白いバスタブがある。蛇口をひねると温かい水が出て来た。  ベッドに戻るとメリーはうつぶせになって目をつぶっている。  眠ってしまったのかと側に座ると、水色の目が開いて俺を見た。 「辛いですか?」  背中に流れる銀の髪を払うと、滑らかな肌をなぞる。かすかな吐息が漏れて、手の下の身体が震えた。  痛みを与えているのではないかと心配になり、手を離すと、メリーが俺を睨む。 「気持ちがいいのに」  オレは微笑むとメリーを抱き上げて風呂に入った。湯船に立たせるとまだ少ないお湯で体を流す。  一度栓を抜いてお湯を抜くともう一度湯を張る。  湯船に座って足の間にメリーを座らせるとその体をなでながら、湯が溜まるのを待った。湯が少し溜まると、白い身体に掬った湯をかけてやる。  珠になった湯が白い肌を滑り落ちるのをうっとりと眺めていると、白い喉が仰け反ってメリーがキスをねだった。その甘い唇に唇を重ねると、メリーが溜め息をつく。  肩から腕、腹から胸へ指を這わせると、メリーの溜め息は甘い喘ぎに変わった。湯の中でメリーの欲望が頭をもたげると、優しく撫でる。  柔らかい喘ぎ声とくねる身体にたまらなくなり、身体を入れ替えると、湯船のふちにその身体を持ち上げた。座らせて大きく身体を開くと、白い片足を湯船の淵にかける。  起立した欲望を舐めあげると、メリーの細い腕が俺の頭をかき抱いて堪らなく甘い声を漏らした。 「ロー……それ、だめ……ああっ」  舐めながらそっと後ろを押して指を滑り込ませるると、中に入っていた俺が溢れ出す。こんなに沢山でたのかと驚くほどの量を指で掻き出しながら、メリーの気持ちのいい部分を撫でると、一層高い声が漏れて泣き声になる。 「やあっ……ん……あぁ……ろ、ロー!」  舌を見せながらいやらしい音をたててメリーを舐める。欲望に煙る瞳を見ながら、これが好きなのだと確信して、中をえぐりながら深く咥えこむ。 「んっ……んあっ……ああっ」  ひときわ大きな嬌声をあげながら、メリーが俺の口の中に熱いものを吐き出す。はあはあと短い息を吐いて涙目のメリーが俺を見下ろす。  にっこりと微笑んでためらわずに呑み込むと、うっとりとした表情が凍りついて、メリーの全身がピンク色に染まる。 「ろ、ロー?」  少しだけこぼれたものを、親指でぬぐって舐めると、メリーの唇がぱくぱくと開いて、真っ赤になった顔が俺を凝視した。 「はい?」 「それは……それは。ふ、普通なの?」 「どうでしょう?」  首を傾げて考える。シンオウには教わらなかった気がするが。 「き、汚いのでは??」  真っ赤な顔でメリーが言う。 「ああ、別に俺は平気ですけど、そうですよね」  蛇口のお湯をすくって口をゆすいで飲み込む。ついでにお湯を止めた。  真っ赤な顔で震える身体を抱きしめると、腰まで溜まったお湯の中で引きずり込んで微笑む。 「身体を洗いましょうか?」  ぶんぶんとメリーが首を振ると、俺を湯から出そうとする。 「わ、わたしもやる」  何をしようとしているかに気付いて微笑む。 「あなたの口は小さいから、気持ち悪くなったりしたら可哀想だ」  湯船に沈んでメリーを逃げられないように抱きしめて、キスをしようとしてためらった。汚いと言っていたから、しばらくはしたくないかもしれない。 「ずるいよ!」  唇が重なって来て、口の中を舌が探る。 「わたしもやりたい」  くねくねと腕の中で暴れられて、水の中に沈みそうになる。笑いながらメリーの身体から手を離して湯船のふちをつかんだ。  メリーが湯船に横たわる俺の上に馬乗りになる。 「したいんだ」  切なげに訴えられて頷きそうになるが、これ以上身体に負担をかけたくないとも思う。メリーと俺は全然違うから。 「明日」  身体を起こしてメリーにキスをする。 「じゃあ、明日、しましょう」  メリーの目に涙が浮かぶ。きゅっと結んだ唇が震えて、小さな泣き声が漏れる。 「だって!」  手を伸ばして、濡れた銀色の髪をゆっくりと撫でる。 「明日はありますよ。約束したでしょう?」  ぼろぼろと綺麗な水色の瞳が涙を流す。 「愛してるんだ」 「俺も、愛しています」  にっこりと笑うと、メリーの口から大きな泣き声が漏れる。 「大丈夫ですよ?」  いい香りのする石鹸を取ると、わあわあと泣き続けるメリーをゆっくりと洗っていく。銀色の髪が洗いあがる頃には、メリーの泣き声も小さくなった。 「わたしも洗う」  ぐすんぐすんとしゃくりあげながら、メリーが泡だらけの手であちこちを撫でる。 「くすぐったい」 「じっとして!」  真剣な顔で洗う姿が面白くて、つい笑ってしまう。  二人で湯船を出ると、メリーがとろんとした目で俺を見る。  退院したばかりなのに、二人でしたあれこれで疲れてしまったのだろう。  布でメリーの頭を拭いていると、小さな声でメリーが呪文を唱えた。  温かい風がくるくると俺たちの周りを回って乾かしていく。 風に舞うメリーの髪を指でくしけずると、メリーが微笑む。  痛々しい微笑みに心が痛くなった。  大丈夫だと言う俺の言葉が本当だったら……どんなにいいだろう。  しなやかな身体を抱き上げて、ベッドに運ぶ。二人でベッドに横たわり、上掛けの下でお互いの体温を分け合った。 「眠りたくないんだ」  今にも眠りそうになりながら、メリーが囁く。その身体を抱き寄せて、優しくゆすりながら、額に口をつける。震えるようにしゃくりあげて、吐息が漏れる。  少しずつ、息が穏やかになっていく。  その吐息を聞きながら、どうしてもこの人と一緒にいたいと願う。ルーカス王の強大な力と、もう一つ……アーシュの闇の力。俺は2つの力の脅威に晒されている。  自分の身だけならば、構いはしない。  所詮は俺など取るに足らない存在だ。  オレはどうしても自分を大事に出来ない。  まだメリーに話していない俺の秘密が、俺をそうさせていた。俺の両親は《契約(インクルード)》を結んでいた。  そして、俺は両親を殺して生まれて来た。

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