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【番外編】星のドレス
twitterであのキャラがもし○○をしたらで『メリーの女装』のリクが来ましたので、それをテーマにした掌編になります。
場所は妖精王の城、兄の結婚式で正装することになったメリーです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「これを」
目を眇めて明らかに女性もので、ひどく華美なドレスを眺める。
「素敵ですよね。これを着た貴方は本当に星のように美しかった」
うっとりとドレスを撫でるローは、わたしの表情には気がついていないようだ。れっきとした男であり、王子であるわたしに、こんなドレスを着せた両親や兄達は許しがたいが、幼児化したわたしに心を痛めたローが、これを着たわたしを見て美しいと喜んだというならば、それは良いことなのだろう。
だがしかし、それは今のわたしは自我を取り戻しているのだし、女装というのはいかがなものなのだろうか。
「むむむ……」
うなったわたしを見て、ローの表情が曇る。
「メリー?」
「わたしがドレスを着るというのはどうなんだろうね?」
ほら、わたし、美しくても王子だし。と続けようとすると、ローの顔がぱっと明るく輝いた。
「とても素敵だと思います」
うわ、そんな顔されたんじゃ、断れないよね。
「俺は前の時にあなたにこれを着せているので、着付けもできますし」
いや、そこを心配しているわけではないんだけど。
「星のティアラも出してくれていますし、フロドが髪は結ってくれると」
「いや、それだけは勘弁してくれ」
わたしの髪の毛を崇拝している兄のでれでれとした顔を思い出して、ぶるぶると身体が震える。
「そうですね、フロドの手を借りずとも、真っすぐな髪のメリーは完璧です」
はあとため息をついて、愛しさが満載されたローの瞳を見返す。
せいぜい美しく着飾ることにしよう。
ローの手を借りて薄絹を重ねていく。その度にローが満足気にため息をついた。とんだ茶番ではあるがローの手つきはうやうやしく、瞳の色は慈愛に満ちていて、わたしの機嫌を良くしてくれる。
ここまでやるなら徹底的に。瞼に青銀色の粉を一刷きし、瞼の際に黒い筋を引く。まつ毛に黒い樹脂を塗ると鏡の前でぱちぱちと瞬きした。頬の高い部分に紅を叩き、唇がつやつやする桃色の口紅を塗った。出来上がった自分の顔を吟味する。まあ、不本意ではあるが、なかなかにいい出来だ。
後ろを振り返ると、ローが呆然とした顔でわたしを見る。
「ティアラを……」
はっとしたローがテーブルの上のティアラを震える手でわたしの髪にそっと乗せた。
「ああ、あなたは本当に美しい。あなたが俺のものだなんて、なんて幸せなんだろう」
心から感激したようにローが呟いて、そっと抱き寄せてくる。
「わたしの旦那様もとても強いし、美しいオオカミだし、わたしを愛しているし……なんてわたしたちは幸せなんだろうね」
くすくす笑ってキスをしようとすると、ローが、ああと嘆く声を出した。
「口紅が落ちてしまう……」
「ああ、そうか……とても残念だ……」
ふうと息を吐いて前髪を揺らした。
行こうと手を差し伸べると、ローが戸惑ったようにわたしを見る。
「どうしたんだい?」
ローがもじもじとわたしを引き寄せて、打ち合わせた前に顔を寄せて首にキスをする。
「ん……」
ちゅ、ちゅ、と落とされるキスに声が漏れた。微かに薔薇の発情香が漂う。
「ロー……」
すりっとローに身を寄せると、ローがわたしの顔をまじまじと覗きこんだ。
情欲の滲んだ顔で見返すと、どうしてもキスがしたくて唇を舐めた。途端にローが表情を曇らせる。
「こんなに美しいあなたを、誰かに見せるなんて、俺には出来ない」
ローのせわしない指先が帯をほどいて中に滑り込む。わたしは笑い声をあげながら喜んでそれに従った。空気を発情香が満たし、ローがそれを吸い込む。慣れてはいるけれど飽きることのない遊びを二人でこなす頃にはわたしの衣装は台無しになっていた。
わたわたと届けられた衣装はしっかりと王子にふさわしい男性のもので、わたしは上機嫌でそれをまとった。
「ごめんなさい、メリー」
謝るローに腕を絡ませて、悪戯っぽく微笑みかけた。
「そうかい?じゃあ、何かドレスを……」
「それは駄目です」
ローの目が厳しくなって、銀の瞳が昏く光る。
「そうだね、わたしもドレスはそれほど好きじゃないし、着るならば二人だけのほうがいい」
軽く唇を合わせると、ローが蕩けるように微笑む。
「愛しています。俺の白い薔薇」
「愛しているともわたしの狼」
【おわり】
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