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11/2 キンモクセイ
花言葉 初恋 陶酔 気高い人 真実の愛
"ごきげんよう、皆の衆。今日も一日本当にご苦労であった。ここに来たからには存分に癒されて帰っていってくれ"
画面に映る二次元の美青年がにこりと笑った。
ヘッドホンから聞こえるのは心地よい低音に鼓膜が揺らされる
「はうあ〜オリヴィエ様は今日もイケボだ〜耳が幸せすぎる」
長い長い現実から帰還してようやくの癒しタイム。このために今日も一日生き抜いたと言っても過言ではない。まぁクソみたいな残業のせいでオンタイムで見れなかったことが悔やまれるが、そんな哀れな人類のためにアーカイブを残してくれているオリヴィエ様は本当に神!!
あ、ちなみに俺が超絶お慕い申し上げているオリヴィエ様とは動画投稿サイトで配信をしているVtuberさんなのである!ちなみに古参自慢できるくらいには初期の初期から応援しているのだ!
今日は雑談配信をしていたらしく、最近の出来事であったり、オンタイムで拝謁できたリスナーたちのコメントへの返事をしたりしていたようだ。『今仕事終わって帰宅した!』『配信間に合ってよかったー』というコメントに対してオリヴィエ様がお疲れ様と声をかけている。
アーカイブのチャットリプレイを見ながら、リアルタイムでオリヴィエ様とやりとりができたリスナーたちに嫉妬心がむくむくと湧き立ってくる。
「くそ。羨ましすぎる。俺だってリアルタイムでオリヴィエ様にお疲れ様って言われたかった!!」
羨ましさに歯軋りしながらもオリヴィエ様の何気ない日常トークを聞き逃すまいと耳を集中させる。
この囁くような優しい低音と笑った時の無邪気な声がたまらんのよ!!
配信中たまに初見の人が迷い込んできてはオリヴィエ様の魅力に陥落している様子をて、ようこそ沼へ!!と1人心の中で叫び散らかす。
ほんとに配信に来てくれた一人一人を大事にしている、そんな姿勢が初期から変わっていなくて素敵なのだ。まだ同接が2桁程の駆け出しの時に何気なくした『いつも癒されてます。がんばってください!!』とかいうありふれたコメントでさえも拾い上げてくれて、嬉しそうな声で"ありがとう!一生懸命頑張るのでこれからも応援してくれ!!"と返事してくれたことは俺の一生の宝物だ。なんならスマホにビデオ撮って残してある。
オリヴィエ様の声に酔いしれていたらあっという間に終わりの時間になったようだ
"それでは皆の衆。名残惜しいが今日はこれでお仕舞いにしよう。来場感謝する。さらばだ!"
配信終了の挨拶をしてアーカイブが切れる。
「はぁ〜今日も最高だった…」
「そりゃなによりだ」
余韻に浸りながらヘッドホンを外すと背後から声をかけられる。最悪だ。せっかくオリヴィエ様の声が鼓膜に馴染んで染み渡っていたところなのに!!機嫌が急降下するのを感じながら振り返ると部屋の扉にもたれかかって腕を組んでいる男がいた。不機嫌を隠すことなく睨みつけ舌打ちする。
「ちっ」
「あってめぇ!今舌打ちしやがったな!?」
「あーあーー!!うっせ!黙れ!オリヴィエ様の声がお前のクソみたいな声で上書きされてなくなるだろうがぁぁ!!!」
「んだと?!そんなこと言ってるとこれまでのアーカイブ全消しして今後いっさい残さねぇからな!!!」
「はぁぁ?!?!それとこれとは別問題だろ!ていうかぜっっったい消すなよ?!もし、消したらお前の存在も抹消してやるからな!!」
「はーん?そんなことしたらお前の大好きな"オリヴィエ様の声"一生聞けなくなるけどいいのか?」
「ぐぅっ…」
そう、この清楚のかけらもない話し方をする男こそが俺の崇拝するオリヴィエ様の魂なのだ。
清楚な美青年の中身が、こんな…こんな粗野で野蛮な男だなんて!!!俺は!!絶対に!!!認めない!!!!!
「"おかえり。今日も一日お疲れ様であった。ご飯の支度ができているぞ。一緒に夕餉にしようではないか"」
そっぽを向いていたら近くまでやってこられて耳元で囁かれる。それも、さっきまで浸っていたあの声で。自分のためだけに向けられた言葉に胸が脈打つ。
「っ……それは、ずるいだろ。」
「けっ、顔真っ赤にしやがって。本当に"オリヴィエ様の声"が大好きなんだな。俺の方が近くにいるってのに…」
「?…なんかいったか」
最後の方ききとれなかったけど、なぜかこいつまで不機嫌そうにしている。というか、拗ねてる?
「あーーはいはい。俺は画面の向こうから声だけ出したろってこったろ?生身で来て悪かったなー」
あ、これ完全に拗ねてるわ。
「別に、悪いとは言ってない…けど」
「舌打ちしたくせに」
「……ごめん。ちゃんと生身のお前も好きだよ」
「えーどうだかなー?信用なんねーなー」
「うっ……」
嘘ではない。好きでもないやつと一緒に住んで生活を送れるほど俺は心広くはないし、なにより恋人なんだから嫌いなわけがない
「じゃあ、キス」
「は?」
「俺のこと好きなら、今、ここで、キスしろ。あ、ほっぺとかなしな。ちゃんと唇にしろよ?」
「ぅ…………」
こいつ…俺が自分からキスするのを恥ずかしがるのを知ってていってやがる…その証拠に目と口元がニヤニヤしてる!!
「なんだーできねーのかーやっぱり俺のことなんか好きでもなんでもねーんだなー」
白々しく棒読みしやがって!!
「わぁかったよ!!やるよ!!やればいいんだろ!!?」
意を決して両手で相手の顔面を掴み引き寄せて唇を合わせてすぐに離す
ちゅっというリップ音が鼓膜に響く
「おら!これで満足か!!??」
「…だめ、足んない。もっと」
そう言って腰を抱き寄せて顔を近づけてくる
「おっまえ!!調子乗んな!!」
「"騒がしいぞ。そんな口は俺が塞いでやろう"」
「ンんっ…?!?!ふ…ぁっ…」
舌を入れて口内を蹂躙してくる。
こいつマジで卑怯だ!!その声出したら俺が逆らえないの知ってるくせにーー!!!
「ん、ごちそーさん。」
「はぁ…はぁ……好き勝手やりやがって……」
「へっ浮気性なやつに誰が本当の恋人か教えてやっただけだっての」
そう言ってニヤリと笑う。そんな顔もサマになってやがる。
「っ!イケメン滅びろ!!」
くそっ!こんな奴が俺のお慕いする麗しのオリヴィエ様だなんて!!!認めてなるものかぁぁ!!!!
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