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11/3 カミツレ
花言葉 あなたを癒す 親交 仲直り など
カーテンを開けると暖かな日差しが差し込む部屋
コポポポポ…と電気ケトルからお湯が沸く音
ティーポットにドライハーブをティースプーン二杯分
お湯を注ぐと乾燥したハーブが開いていくと同時に香りが部屋に満ちる
3分蒸らす間にティーカップ二つと小さな花束をテーブルに並べる。小さな15本のカモミール。
意味はごめんなさい
昨日泣かせてしまった恋人と仲直りするために朝から開いている花屋を探して用意した。
なんとか許してもらおうという小賢しいあがきだと自分でもわかっている。
しかし、それくらい必死なのだ。二人の記念日に手料理を準備してくれていたのに、急な上司との飲み会で遅くなってしまい帰った時には寝室で一人毛布を抱きしめて泣いていた。
「ただいま。遅くなってごめん」
「……別に、仕事だったんだろ。」
毛布に顔を埋めたままでくぐもった声になっているが、泣いていたのがわかるくらい掠れていた
「ケーキ、買ってきたんだけど…」
「もう寝るからいらない」
「そっか、ごめんな…おやすみ」
「………」
寝室の扉を閉めてリビングに戻る。
ケーキを仕舞おうと冷蔵庫を開けると張り切って準備してくれたであろう料理がラップされて並べられていた。本当になんてことをしてしまったのだろう。こんなにも健気な年下な恋人を泣かせてしまったなんて…
社会人と大学生の生活リズムが中々合わないなんてわかっていた、だからこそ、二人の時間は大切にしようとそう決めていたのに、バカな俺は恋人と仕事の付き合いを天秤にかけて仕事をとってしまったのだ。こいつなら分かってくれるとどこかで甘えていたのかもしれない。現に'仕事'だったんだろうと言わせてしまった。
「ちゃんと謝らないと…!」
自分の顔を叩いて気合いを入れ、寝室の扉を開ける。昨日の夜と同じ状態で寝息を立てている顔を覗き込むと目元が赤くなって腫れていた。可愛い顔に跡をつけてしまった申し訳なさを感じながら指先でそっと触れる。
「ごめんな…」
「……………俺の方こそ、ごめん」
目元に触れた手をそっと掴んでポツリと呟いた
「付き合いだって大事な仕事の一つなんだって分かってたけど、、分かってるつもりだったけど…がまん、できなかった」
「そんなことないよ。お前は何も悪くない。俺が大事な約束があるからって言えばよかったんだ。それに恋人なんだから我慢なんかしなくてもいいんだぞ。わがまま言ってくれる方が俺は嬉しい」
「じゃあ、昨日の埋め合わせ、しろ。俺張り切ってめちゃくちゃ準備したんだからな」
「おう、じゃあ、今日一日有給とって一緒にいることにするな」
「は?いや、待てよ。そんな急に休んでいいもんなのか?!」
「いいんだよ。こういう時のために有給があるんだから。理由なんてあとで適当に考えとくから気にすんな」
「適当って…」
「大丈夫大丈夫。これでも普段真面目にやってるから、たまにくらい許されるさ。そういうことだから、今日は一日俺を独り占めして好きにしていいぞ。あ、そろそろハーブティーが出来上がるかはまずはそれ飲もうか。渡したいものもあるし、な?」
手を引き立ち上がらせてリビングへと連れていく
「いいだしたのはお前だからな!後で怒られたとか言っても知らねーぞ!」
「ああ!そんな些細なことより今はお前のことを大切にしたいからな!大丈夫だ!」
ハーブの香りでいっぱいのリビングで始まった一日
いうまでもなくこれまでの記念日の中でもダントツで最高のものだった
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