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11/12 レモン
花言葉 心からの思慕 香気
俺はとある企業で働くしがないリーマンだった。その日はたまたま次の案件のため深夜までの残業中に眠気に負けてふっと意識を飛ばしてしまったのが最後の記憶。
次に目を覚ました時の最初の光景は俺にとってはほど遠く、縁などないと思っていたようなド修羅場だった。
「……との婚約破棄を言い渡す!!!」
「はい??」
さっきまで会社で残業していたはずなのになぜ僕の目の前にはこちらを睨みつけるキラキラなイケメン王子とそれに抱き締められている可愛い男の子が立っているのだろう。あと婚約破棄っめなんのことだ?
というか、周りの人間みんなドレスやらタキシードやらで着飾ってるし…もしかしてなんかのパーティか?
状況が掴めずキョロキョロしているとこちらを並んでいたイケメン王子がこちらに寄ってきて首根っこを掴み上げられた
「聞いているのか?!」
「は、はぁ。婚約破棄、でしたっけ?そもそも俺はあなたと婚約などした記憶がないので破棄するもなにも…いや、待てよ…」
なんだかこの状況既視感が………
「き、貴様!この俺のことを侮辱しているのか?!?!」
至近距離でみるこの王子の顔もどこかで…
「ジン様!リモネ様も突然のことで混乱しておられるのです。そうですよね?」
そう言って間に入ってきた可愛らしい男の子
「なぜ止めるんだ!こいつはお前に、俺の愛しいグレナに散々な狼藉を働いた相手だというのに!」
リモネ…ジン…グレナ……
「ああ!!!」
思い出した!!!これゲームのキャラクターの名前だ!!現実で恋なんてできないと思っていた俺がずっぷり沼に浸かっていたオメガバースBLの恋愛ゲーム!!
で、グレナと呼ばれた可愛い男の子が主人公でジン様が攻略対象の一人でこのゲームの舞台である王国の王太子だ
んでもって、リモネはこのゲームでのいわゆる悪役令息、元々王太子の許嫁だったがゲームが進行していくと最終的にはどの攻略対象が相手だとしても主人公に嫌がらせをしたとして糾弾される役回りなのだ
なるほど…異世界転生というやつか。となるとここはゲームのストーリー通り婚約破棄に対して異議申し立てをしてグレナに対して懐にあるこの短剣を突き立てるとそれを守ろうとしたジンに返り討ちにあい切り伏せられることになるな…それだけは避けなければ、まだ生きていたいし
「リモネ!!さっきからなにをぶつぶつ言っているんだ?!」
「いえ、ちょっと状況の把握と整理をしておりました。」
「なに!?本当に馬鹿にしているのか!なら今一度言ってやろう!リモーニオ ディ リモーネ、貴様との婚約破棄を言い渡す!!!」
バーン!と効果音がつきそうな勢いで言い放つジン。ストーリーが元の軌道に戻ったようだ。ここで俺が取るべき行動は…
「……承知いたしました」
「は?」
「ですから、承知いたしましたと申し上げました。わたくしリモーニオ ディ リモーネ、ジン ヴァルツヴァルド様との婚約破棄に同意いたします。」
「な、ぜだ…なぜそんなにすんなりと」
「なぜもなにもここで癇癪を起こして暴れても結果は変わらないでしょう?それならば素直に引き下がるのが最も美しい去り際かと」
「なにを今更!!」
「リモネ様…」
「グレナ様、なぜあなたがそのように悲しそうなお顔をなさるのですか。あなたが望んだ結果でしょうに。おっと、あまり言い過ぎるとまた不敬だなんだと言われかねませんね。では、ジン様グレナ様お幸せに……ジン様、お慕い、しておりました」
あれ、なんだ最後の一言、勝手に口からこぼれてったぞ
もしかして、これがリモネの気持ちなのだろうか…そうだよな。こんなに言われてもまだこの男のことが…
この身体に入ってから駆け巡った身に覚えのない記憶。やり方は間違っていたかもしれないが本当に目の前のこの男のことを愛していたが故の行動なのだということが理解できる。
必死だったのだ、愛する人間が自分から離れていくのをひしひしと肌で実感する毎日。これまでその人の隣にいるために続けてきた努力が全て水の泡になってしまうようなそんな感覚に襲われて善悪の判断が段々とつかなくなっていった。だが直接手を下すことはなかったようだ…厳しく叱責したりはしていたが、それも王太子の隣に立つとはどういうことかという心構えからきていたものだ。
この子も根っこからの悪役ではない、と思う。だから、できることなら幸せになってほしい、幸せにしてやりたい。
そのためには生きていなければならない!だから俺はゲームのストーリー通りに物語が進まないようにしなければ!!
まずは一つ目の死亡ルートを回避していくぞ!
「では、わたくしはこれにて失礼致します。ご機嫌よう」
ざわざわと騒がしいオーディエンスを無視して会場を後にする、無駄に大きくて豪華な扉を閉め外にでると堰を切ったように目から大粒の涙がこぼれていった
多分これは俺のじゃない。リモネ本人の感情がそうさせているのだろう。
「大丈夫。大丈夫だから今は悔しくて寂しくて仕方ないかもしれないけど、俺がちゃんと笑えるようにしてやるからな」
溢れる涙をそのままにして前を向き歩き出す
次にやるべきことは…きっとこのあと王太子から婚約破棄されたとして家を追われるだろう
ま、なにがあっても死ななきゃ安い!
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