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花言葉 密会 思い出 忍び逢い 「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」 カラン…カラン… 鈴の音と共に扉が閉まる 今し方店から出て行った男の座っていた席に向かうと窓際に花束が残されていた 「……りょーかい」 テーブルの片付けついでに花束を手に取りカウンター席の花瓶にさす 「あれ?店長、さっきの怖い人また花束置いてったんですか?ていうか、毎度毎度コーヒー飲みながら店長のことじろじろ睨みつけてるし…まさか店長に因縁つけに来てるんじゃ…」 他のテーブルの対応をしていたバイトの子がこちらに駆け寄ってきて心配そうに声をかけてくる 「こらこら、滅多なことを言うもんじゃないよ。あの人はうちの大事な常連さんなんだから。こんな小さな喫茶店に毎日来てくれる人なんてそうそういないよ?」 「そ、それはそうですけど。どう見てもカタギの人じゃない雰囲気がバシバシ伝わってくるんで…注文取りに行っても『ブレンドで』って」 目を吊り上げて彼の真似をするバイトくん ちょっと似てて吹き出してしまう 「あっはは、まぁ見た目は怖いよね。でも、案外そうでもないかもしれないよ?恥ずかしがり屋で無口なだけとか、ね?」 「えーーそんな風には見えないけどなぁ」 「ほらほら、無駄話してないで仕事仕事。はい。アイスブレンドとブラウニーのセット」 「はーい。仕事しまーす。でも、本当に気をつけてくださいね。店長に目をつけてるのは絶対そうなんでっ!」 「ははっ忠告ありがとう。気をつけとくよ」 まぁ本当にカタギじゃ無かったりするんだけど… んでもって、思いっきり家同士が対立してたり 「ま、家同士がどうとかしったこっちゃないんだけど」 そういうのに嫌気が差して家を飛び出して敵地に自分の店兼住まいを持ったってわけ。自分の家からはなかなか近づけない場所だし、あっちはあっちで若が直々に監視してるって話になってるから、どちらからも手を出されない都合のいい隠れ家になっている その敵の若様はどうやら今日はこの後少し忙しいらしい いつもより花の数が多かった 「ふふ、ちょっと頑張って夕飯準備しとこうかな」 夜にまた店にこそこそと裏口から顔を出す男の顔を思い浮かべて口角が上がる

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