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12/4 アベリア

花言葉 強運 謙虚 この世の中には物欲センサーというものがある、らしい 欲しいものはなかなか手に入らないのに、そうでないものはたくさん手に入ったりすることはよくある ゲームのアイテム収集で永遠に欲しい素材が手に入らないなんてザラだ プレイヤーとしてゲームをしている時ですら物欲センサーに目的達成を阻まれてイライラしていたのに、それがリアルになったら言わずもがなストレスがより大きい 「んで、今オレは物欲センサーに苛立たされているわけである」 「ちょっと…ぶつぶつ口動かす暇があったら手を動かしてくれない?ただでさえ希少な鉱石探しにきてるんだから」 そう言ってピッケルを壁に叩きつけるオレよりも一回り小さい耳の長い人 まぁあれだよくあるエルフ族さんだ ここは剣と魔法の世界。日本で一般大学生をしていたオレはなぜかこの異世界に転生したのだ。 死んでもないし、トラックに跳ねられたわけでもない。まして勇者として召喚されてもいないしなにか特別なチートを持ってきたわけでもない。寝て起きたら前の世界の状態のままで深い森の中にいて、エルフ族に侵入者として殺されそうになっていた。 で、その時に助けてくれたのが今隣で怒りながら鉱石を掘っている人なのだ。大学生のオレよりも若く見えるがこれでもう百年弱生きているらしい。この世界でもよくある設定同様エルフは長命のようだ。 「あぁーはいはい。すみませーん。ってか本当にここにあるんすか?その、なんて言いましたっけ虹色魔鉱石?とかいうやつ」 「ある!っていうかないと困る。この場所に来るまでにどれだけの出費があったと思ってんだ。もし隅から隅まで探してなかったらあの情報屋脅して全費用プラスαでぶんどってやる」 「うわぁ……っていうか、前から思ってましたけど、エルフ族にしてはなんというかかわってますよね」 「あ゛ぁん?」 「こっわ。あーでも、そういう感情が表に出てくるのも珍しい?ような。エルフの里にいた他の人たちってもっとこうおっとりしてて謙虚?というか森の中で穏やかに過ごせれば周りにあんまり興味なさそうというか。というか、むしろ外部の干渉を避けてるみたいな?」 「………らしくなくて悪かったな。昔からよく言われてたんだ。外の世界に興味もってちょくちょく里から出ていっては色々と持ち帰ってくるからお前は変わってるって」 「いや、むしろオレとしては変わり者でいてくれてありがたかったっすよ。あの場にあなたがいなかったら多分そのまま殺されてましたしね」 この世界に飛ばされてエルフ族の皆様に囲まれた時、もしかしたら里の外で聞いた伝承にある異世界からの訪問者かもしれないと、もしそうだとしたらこの世界にない知識を持っているだろうと自らの欲を満たすために保護してくれたのだ まぁ、保護という名目でオレの世界にあった知識を睡眠時間も削って吐き出させるというほぼ拷問みたいなものだったけれど、生きているだけ強運だと思うことにした 「あの時全部の運使い切ったのかもなぁ」 「……不吉なこと言わないでよ。もし見たからなかったらお前のせいにしてやろうか?」 「それは勘弁してください。ていうか、なんでそんな希少なものをさがしてるんすか?」 ただの魔鉱石ならもう既にたくさん掘り上げているのだが、それよりもランクの上、というか魔鉱石としては最上級と言われているらしい虹色魔鉱石を探す理由を聞いていなかったな 「……のためだよ。」 「え?」 カツーンという大きな音のせいで急に小さくなった声がうまく聞き取れなかった 「だーかーら!お前のためだって言ってるの!」 「へ?……オレの、ため?」 「そう!虹色魔鉱石は少ない魔力でも強力な魔法が使えるようになる効果があるって言われてるの。多分魔力増幅の術式が自然発生的に付与されてるんだと思う。だから、魔力の少ないお前でも自力で身を守れる程度の魔法が使えるようになるんじゃないかって」 以上非常に早口でご説明いただきました つまり、この人は一度気まぐれで救った命をできる限りながく保たせようとしてくれているのだ 「ほんと、珍しいくらい良い人っすね」 エルフ族でなくともここまでのお人好し、なかなかいないのではないだろうか ほんとこの人に会って全部の運使い切ったのではなかろうか。なんか嬉しくて口元が緩む 「さっきからうるっさい!お前が生きていくためなんだからしゃべってないで」 「手を動かせ!ですよね。わかってますわかってます」 「わかってるならいいけど……ってその足元の!!」 「??」 指さされた足元をみると複数色の波模様がうごめいている石があった どう見ても虹色ではないし模様がうぞうぞしていて… 「まさか、この気持ち悪いのが…」 「虹色魔鉱石」 「……まじ、かぁ…」 え、これを肌身離さずもっとくの?いや確かにめっちゃ珍しいですよーって見た目ではあるけども 呪いとかに使われそうな感じですけど 「まじもまじ、さ、とっとと帰って加工するよ。これだけの大きさがあれば問題なく作れそうだし。あ、ついでに大量に出てきた魔鉱石も持って帰るよ。この前話してくれた異世界の動画に似たものを作る実験に使うから」 「はーい。承知しましたー」 大きめの魔鉱石を選別して籠に放り込み里の外れにある研究室、もといオレたちの家に帰る 帰宅後、虹色魔鉱石を使った杖を作ってくれた。そして、そこから数日に及んで地獄の魔法特訓があったのは言うまでもない。

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