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12/6 キングプロテア
花言葉 王者の風格
ワァァァァ!!!!
アリーナの中が歓声に包まれる
たった今決勝戦の終わりを告げるブザーがなったのだ
大きな歓声は勝ったチームに向けられているが負けたチームにもよくやったと声がかけられている
どちらが勝つか最後までわからなかった決勝戦「本当によくやったよ」
悔し涙を流す後輩たちを観客席から見下ろす
自分たちが来れなかったこの舞台に立った自慢の後輩たちだ
本当なら声をかけに行きたいところだが、過去の人間、それも彼らよりも出来の悪かった俺が顔を出したところで何を言ってやればいいのかもわからないしな
自分たちでこの結果を飲み下して消化して、きっとこれから先につなげていくだろう
あいつらは、いや、あいつは強いやつだから
「…帰るか」
踵を返しアリーナの出口へと向かう
「これも持って帰らないとな」
紙袋に入った花束をみて苦笑いする
絶対勝つので何か決勝戦終わったらお祝いしてください!
そう言ってきたあいつのために普段絶対行かない花屋にいって、好きな人が大事な試合で勝った時にお祝いで贈るようなものを、なんてクソ恥ずかしいオーダーまでしたけど
「王者…ね。」
真ん中に据えられた王者と名のつくピンクの花。
今のあいつには嫌味に取られるかもしれないほど堂々とした美しい花。
「流石に渡せるわけ、ないか」
持って帰って処分するか。そういや、姉貴がドライフラワー作るのにハマってたっけ…
そんなことを考えながら歩いていると後ろから忙しない足音が聞こえてきて
「っ先輩!!!!」
でかい声で呼び止められた
振り向くと先ほどまでコートにいた男が息をあげながら走ってきていた
「…先輩!なんで帰っちゃうんですか!!」
どうやら会場から出ていくのを見られていたらしく走って追いかけてきたみたいだ
「はぁ…こーら。部長が勝手な行動しちゃダメでしょーが」
「だ、だって。先輩が出ていくのが見えたから……」
ほっぺを膨らませながら拗ねているこの男、先程の決勝戦で惜しくも敗れたチームの部長なのだが…
「まったく…さっきまでチームをまとめてた男とは思えないね。こんなところお前に憧れてる後輩たちに見られたらどうするつもりなのさ」
「別にどうもしないです。そんなことよりなんで黙って帰ろうとしてるんですか。あんな大口叩いたくせに俺が負けたから呆れて嫌いになった?」
「………はぁ」
「あっため息ついた!やっぱり!そうなんだ!」
拗ねていたかと思えば次は泣きそうになる目の前の男
つい数分前までコートで見せてたキリッとした表情はどこにいったのやら…
「ちーがうっての。そんなんで嫌いになるわけないでしょ」
「じゃあ、なんで」
「…なんて声かけていいか分からなかったのよ。俺はお前を含めてみんなをこごで連れて行ってあげられなかったからさ。頑張ったな、とか次の大会で、とか言うのは烏滸がましいかなって」
何を言っても先人という立場上、上からものを言っている風に捉えられかねない。だから、軽々しく声をかけるのは憚られたのだ。
「そんな…そんなことない!!俺は!先輩に頑張ったなって言ってもらえたらすごい嬉しい!!!負けたのは悔しいけど先輩に、好きな人にそう言ってもらえるくらいやれたんだって思えるかっんむ!!」
「おっま!!声がでかい!!こんのおばか!」
馬鹿みたいに大声でとんでもない発言をしたバカの口を手で塞ぐ
本当についさっき見ていた男と同一人物だとは思えない
「んんんっ……ぷはぁ!先輩!なんで口塞ぐんです……か……はな、たば?」
「あっ……」
口を塞ぐのに手を近づけたから持っていた袋の中身が見えてしまったらしい
「それ、もしかして」
「……違う」
「いや、違わないよね?!ここに持ってきてるってことはそういうことだよね?!俺のために?」
「…………」
こいつへの贈り物っていうのは間違いではないが、状況的にも花に込めたメッセージ的にも今渡すものでは……
「もしかして、俺が負けたから渡しづらくて持って帰って処分しようとか思ってた?」
図星を疲れて目を逸らす
「やっぱり……そんなのダメだから!これは俺がもらうからね!」
そう言って手に提げていた紙袋ごと奪われた
「あっちょっこら!勝手に取るんじゃないよ!」
「やーだねー。だってこれ、先輩が俺のためにオーダーしてくれたんでしょ?」
「っ……まーそうだけど…その真ん中の花の意味が…」
「そんなの関係ないよ。好きな人が自分のことを想って頼んでくれた花束ってだけで特別なんだから!」
本当に心底嬉しそうに笑う目の前の恋人をみて、それならまぁいいかと思う
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「ちなみに、花の意味って」
「王者の風格」
「うぐぅっ!!おう、じゃ……」
「ほーらね」
「い、いや、だいじょぶ。そんなの気に、してない、から」
「お前が絶対勝つって言ってたから入れてもらったんだよねー」
「ぐはぁっ!!」
「ふっ…はははは!ま、もう渡しちゃったから責任もって持って帰ってちょーだい」
「う、うん!次は絶対勝つから!!」
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