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12/10 シャコバサボテン
花言葉 一時の美 美しい眺め
「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!!残りの時間も楽しんでいってねー!!!」
〝ワァァァァァ!!!!!〟
会場に来てくれたファンの子達に声をかけるとドッと盛り上がりを見せてくれる。本当に楽しんでくれているのが笑顔と声色で伝わってくる。
ステージの上から見るこの景色はいつになっても胸を躍らせてくれる。
これがあるからアイドルはやめられない!
3人組男性アイドルグループ【デザートブロッサム】まだまだ新米のグループだが、ファンのみんなのおかげでこうやって大きな会場でライブができるまでに成長したのだ。俺はそのグループのリーダーをしている。個性的なメンバーと一緒に歌って踊って、たまにトークしたり。ファンだけじゃなくメンバー全員が楽しいと思えるライブができる様に心がけている。
それが、俺のことをここまで連れてきてくれたファンとメンバーへの恩返しになると思っているから。
くるりとステージの方へ向き、メンバー一人一人とアイコンタクトをとると各々頷いたりピースサインをしたりと反応を返してくれる。
準備万端なことを確認してから目を閉じて一つ深呼吸し会場の方へ向き直る
「よーし!じゃあ次の曲行くぞー!!」
やっぱ、ライブ最高だ!!
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ライブ終了後の控え室
シワにならない様衣装を脱ぎ捨ててTシャツとパンツになりソファに項垂れる
「………ふぅ……おわったぁ………」
今日も今日とて燃え尽きた。でもこの疲労感は嫌いじゃない、むしろ好きだ。やり切ったっていう実感が沸々と湧いてくる。
「リーダー、今回も燃えかすになってんねー。ま、オレらもだけどさ」
そう言って隣に座り頭を撫でてくる男。デザートブロッサムのなかでも一際目立つホスト風イケメン
「……だらしない」
そんな俺たちを見てため息をつきながらテキパキと撤収準備をしてくれているのがもう1人のメンバー、こいつは歌とダンスが俺たちの中で一番上手い
ビジュ担当、歌ダンス担当、そして俺は
「トーク担当…と」
まだまだ駆け出しでリーダーとか何にも決まってなかったころ、2人と違って特に突出したものがない俺はしゃべりで場を盛り上げるくらいしないとと思って頑張っていた。そしたらいつの間にか周囲からリーダーとして認識されていて、そのまま今の立ち位置にいる。
にしても、ほんと、なんでこの2人が何にもない俺と一緒にやってくれてるんだろうと常々不思議だ
「ほんと、夢みたいだなぁ」
「なに?突然どーしたのさ。ここは夢じゃなくて現実だよー」
「……ライブで燃え尽きて、脳みそまで溶けたんじゃねぇのか?」
「なにそのホラー展開、え、嘘でしょ?リーダー大丈夫だよね?」
「大丈夫大丈夫。そんなんなるわけ……」
前髪をかきあげられておでこで熱を測られる
「っ!だめだ!どうしようめっちゃ熱いよ!!?」
「それはライブの後だからって冷た?!」
熱もこもってると言おうとしたら頭にひんやりとしたものが当てられた
「……氷嚢。ちゃんと熱取れるまで休んどけ」
片付けはしといてやるから、そういって俺の分まで荷物をまとめてくれる。おかんだ。
「あ、はい。ありがとございます」
「やーさしー!じゃオレの分もー」
「お前は自分でやれ」
「えーー、けちー。ま、いいや、じゃリーダーはちゃんと休んでてね。オレたちで片付けしちゃうから」
ソファから立ち上がり荷物の片付けを始める
なんか、申し訳ない、けど、まじで動けないからありがたい…ほんと、甘やかされてるなぁ
「もう2人がいなきゃ生きていけなくなるかも…いっそ一緒に暮らせたら」
毎日こうやって甘やかしてくれないかなー、なんて。流石にダメ人間の思考がすぎるか
「「っ…!!!」」
ぼそっと呟いた言葉が聞こえたのか目を見開いた2人が同時にすごい勢いでこちらを振り返った
「な、なんだよ…」
「い、いまなんて?!リーダー!なんて言った?!!」
一瞬の沈黙の後、荷物を放り投げこちらに飛んできたイケメンに肩を掴まれた
「ちょっ近い近い近い!」
くそっ見慣れてきたとはいえ顔がいい!!
「…お前がそのつもりなら俺はいつでも準備できてる」
こっちもこっちで片付けの手を止めて俺の隣に座り笑みを浮かべて髪を撫でてくる
「へ?」
そうだった!こっちもイケメンだった!!なんだこの状況!見慣れてる俺でもなんかドキドキする!!ファンからしたらとんでもないサービスになりそうだな!!
「なにとぼけてるんだ。お前が言ったんだろ?一緒に住みたいって」
「そーそー!リーダーがオレと一緒にって」
「あ?お前じゃなくて俺だろうが」
「はぁぁ?絶対オレだもんね!」「はっんなわけねぇだろ。俺の方が面倒見てやれる」
「「ちっ」」
「いや、あの、2人とも?」
目の前で凄まないでくれないかな。迫力がすごいんだけど
「「リーダー/お前はどっちがいいの?/んだ?」」
「え、あ、どっちとか、そういうのは……」
選べるわけないだろ!!
ガチャ
「失礼します。みなさんお疲れ様でし…た…………なにやってるんですか」
2人がぐいぐい迫ってきているところに扉を開けて人が入ってきた
「あっ!!!マネージャー!!助けて!!」
2人をおしのけてマネージャーの元へ駆け寄る
「おい!話はおわってねぇ」「リーダー逃げないで!マネさん抱きつかれてずるい!」
「2人とも…なんか目が怖い…」
「はぁ、あなたたち……」
「マネージャーぁぁたすけてぇ」
「どうせあなたが余計なこと言ったんでしょうに。責任取れないなら発言を慎みなさい。あと、一応アイドルなんですからいくら控室とはいえシャツとパンツって気が抜けすぎです」
「うぐっ……スミマセン」
ぐうの音もでない
余計なことっていうか、まさか聞こえてるとは思ってなかったんだもん…
マネージャーに背に隠れたまま少し反省する
2人はというとマネージャーに向けてグルルルと猛獣が唸る様に威嚇している
「はぁ……それだけ元気ならさっさと片付けて帰りますよ。早く休んで疲れをとってもらわないと明日からまたスケジュールが詰まってるんですから」
そう言って首根っこを掴まれポイと猛獣たちの方へと投げ捨てられた。扱いが雑では?!
「リーダー!」「で、どっちなんだ?」
「あ、あぅ…」
こいつら目が!目が怖い!!!
「じゃあ、わたしは他の撤収作業の進捗見てきますね。戻るまでに片付け終わらせておいてくださいね」
そう言って部屋から出て行こうとするマネージャー
「あっ!マネージャーおいてかないで!」
「おい、俺らよりマネのがいいってのが?」
「いや!だからそういうことじゃ」
「ひどいよリーダー、オレらのこと弄んだの?」
「だから、ちがっ」
こいつらぁぁぁあ!!!!
「あぁ、そうでした。片付けといえば。事務所近くのマンション借りたので今後3人で暮らしてもらいます。引越しするつもりで家の荷物も片付けといてください」
「………へ?」
「スケジュールがかなりタイトになってきてるのでマネージャーとしても一緒に住んでもらったほうが管理が楽なんです。あ、部屋はそれぞれ一つずつあるので安心してくださいね。」
「いや!安心とか、そういうのでは」
「それに、後ろの2人はなにも問題ないって顔してますよ」
「リーダーと一緒……引越しの準備しなきゃ!!せっかくだしいらないものは捨てちゃお」
「そんなに荷物はねぇから片付けはまぁいいとして、新居で使う調味料とか買い揃えないとな…」
「2人とも…なんでノリノリなの?」
「では、そういうことでよろしくお願いしますねー」
そう言ってひらひらと手を振りながらでていくマネージャーを呆然としながら見送る
振り返ると満遍の笑みを浮かべる2人がいた
「「これから毎日楽しくなりそうだね!!/だな」」
「そ、そうだね」
俺は引き攣った笑顔で返事するしかなかった
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