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12/15 ジンチョウゲ
花言葉 栄光 不死 不滅 永遠
魔王の統べる西側諸国と勇者を中心として魔王に対抗せんとする東の王国
この世界は東西で魔王国と聖王国に分断されている
それはずっとずっと昔から。その時代時代の勇者がなんとか魔王国からの侵攻を食い止めていた。
魔王は一つの命を生きる不死の存在だと言われている。
勇者は数多の命を繋いで力を継承する不滅の存在だと言われている。
だから、当代魔王が死ねば魔王国は崩壊し魔物達の脅威は去る、とそう言い伝えられていた。
オレも幼い頃から周りの人たちにそう言われて育てられてきた。勇者として魔王を倒すのだと、これまでの勇者が成し遂げられなかった悲願を達成するのだと。生まれた時に勇者の啓示を受けた者の宿命だと思いこれまで魔物を倒し、聖王国を魔王の手から守ってきた。そして、魔王を倒すために仲間と一緒に魔王国へと侵攻を始め、今ついに魔王のいるとされる城の玉座の前についたところなのだ。
そうここには魔王がいて玉座に座り勇者であるオレが来るのを待ち構えているはず、なんだ。いや、そうでないとおかしいんだ。そのためにここにきたのだから…それなのに
「なんで、魔王じゃなくてあなたがいるんですか……」
見上げた先、いかにも魔王が座っている椅子に腰を据えているのは到底魔物にはみえない、人間族の男
「何をしているんですか?!初代勇者!!!」
そう叫ぶとふっと馬鹿にした様な笑みを浮かべる男。この方…いや、こいつはこの世界が分断された時に1番初めに勇者として選ばれた男だ。もう随分と昔のはずなのになぜか聖王国内のあちこちにある銅像と同じ姿を保っていたから一目見て何者かわかった
「何をしている…か。見れば分かるだろう?僕がこの魔王国の盟主、当代の魔王なんだよ」
「そんなっ…そんなばかなこと」
「馬鹿だなんてひどいな〜。当代勇者くん?さて、君もこれまでの僕の後輩勇者と同じように消えてもらわないとね」
バイバイとそう言ってこちらに手をかざし、聞いたことも呪文を唱え魔術を放ってくる
「ぐああっ!?!なっ…なんだ、これ…!!」
ドス黒い光の束が体を包み込む
だんだんと自分の存在が消されていくのがわかる
でも、なぜか死ぬわけではない、とそう感じる
「ふふ、不思議な感じでしょ。今君に放ったのは強制的に魂を転生させる魔術なんだ」
「な…にを…いって……っぐう……」
魂を強制的に転生だって?そんなことができるわけ……いや、もし本当なら…
「そうそう、勇者は数多の命をなんとやらだっけ?あれほんとは違うんだよね。実際はこうやってここにくるたびに僕に負けて同じ魂がずっとぐるぐる回ってるだけだから。あ、記憶は引き継がないから、まぁ新しい命といえばそうなのかな?知らないけど」
「く……そんな…くそ……うっ」
身体の感覚がほとんどなくなってきた
目の前でニコニコ話している男が何を言っているのかもだんだん理解できなくなってくる
「あっはは、もうそろそろ消えそうだね。大丈夫、痛くはないよ。ただ君と言う今世の勇者が消えて新しい勇者が生まれ落ちる、それだけだから。じゃあまたね。次はもっとゆっくりきてくれていいから。僕たち2人の幸せな生活をあんまり頻繁に邪魔しないでね」
「…ふ、たり……?」
「そうそう、ここは初代勇者と初代魔王の愛の城なんだから」
「…な…にを…いって」
そう言って男が視線を送った先にはいかにも魔王と言う風体の屈曲な魔族の男が腕を組んで立っていた。
初代魔王と呼ばれた男はこちらをみてため息を吐きながら歩いてくる。
「はぁ…ほんまなんで最後の最後でわいのことバラすねん。せっかく隠れとったのに…」
「なんで?隠れなくてもいいじゃん」
「いや、今の魔王はお前なんやからわいが出て行ったらややこしくなるやろ。それにわいはもう魔王やないし、ラスボスっぽいことするんもなんか恥ずかしいし」
「あっ!今僕のこと恥ずかしいやつだって言った?!それはちょっと見過ごせないんだけど。僕は君と2人のラブラブイチャイチャな毎日を守るためにこうやって毎度邪魔しにくる勇者を消してるのにー!!」
ポカポカと初代魔王をなぐる当代魔王
なんだ、これ……漫才でも見せられてるのか……
なんでこんな奴らのためにオレ必死になってここまできたんだ……
「すまん、すまんて〜、せやから殴るんやめてや。君一応そんなでも勇者やから軽い力でも聖力をピリピリ感じるんよ」
「え?!?!精力?!……エッチ」
「いや、ちゃうから、今絶対違う方の漢字やったやろ。神聖な力のほうな?」
「どっちもそんなに変わんないよ。ってことでこの後はベッドの上でたくさん僕のせいりょく感じてね?」
「はぁぁぁあ…なんでわいはこんな奴に負けたんやろ。ほんま不思議やわぁ」
「愛の力で勝った、と言っても過言ではないね。僕は君を手に入れるために全力を尽くしたらからね」
「あーはいはい。せやなー。愛の力やなー。っていうか、それよりもこの子もうすぐ消えそうやで」
「あ、ほんとだ」
漫才をやめてこちらに向き直る2人
初代勇者…まさか、魔王を倒して手籠にしているなんて……ていうか、ベタ惚れだろ、これ
「…絶対に、また……来るからな…そのとき…は……」
そこでぷつりと意識が途切れ目の前が真っ暗になった
✳︎✳︎✳︎✳︎
勇者が黒い光に飲み込まれた後、魔王城玉座の間
「うーん。今回はかなり早かったね」
「せやな。ってことで今回の賭けはわいの勝ちってことで」
「ちぇー、まぁいいや。じゃあ次の代が来るまで僕が抱かれる側ってことで」
「よっしゃ!これまで散々泣かされた分仕返ししたるわ!」
「ふーん。やる気だねぇ。ま、せいぜい頑張ってよね。逆に泣かされない様に」
「ちぃぃっ!!調子乗ってられんのも今のうちやからな!ひんひん言わせたんねん!!」
「じゃ、そうと決まれば、このままベッド行こう?」
「おう!望むところや!!覚悟せぇよ!」
2人は玉座の間を後にし自分たちの寝室へと向かって行った
ちなみに抱いてるくせにひんひん泣かされたのは言うまでもないだろう
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