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花言葉 優美 愚かしさ 子孫の守護
ギリシャ神話におけるハーデスとペルセポネの逸話
差し出された十二粒のざくろのうち六粒を食べてしまったために年の半分を冥界ですごすこととなったという
日本であれば黄泉竈食ひ(よもつへぐい)だろうか
この世ならざる場所で給されたものを口にしてしまうことにより現世に戻って来れなくなる
つまるところ甘美な誘惑に負けてはならないという教訓なのだろう
たとえば、今目の前にいる自称未来の息子を名乗る男の差し出す誘惑に屈してはならない。とか
「そんなに警戒しなくても大丈夫だってば、別にこれを食べたところで父さんに何かある訳じゃないって言ってるでしょ?」
そういってにこにこ笑いながらテーブルの向かい側にすわって豪勢な食事を勧めてくる
「いや、どう考えても怪しいでしょう。仕事から帰ってきたら自分の息子を名乗る人物が部屋の中にいて、自分の好物だらけの食事を準備してる、とか。というか、息子ってところもどうなんだか
だって俺まだ結婚てか恋人すらいないんですけど?!」
「あーはいはい。混乱すると早口になるところは昔っから変わらないんだね。てか、的確に好物だけ準備してるとことかで信じて欲しいんだけど。結構珍しいやつとかもわざわざ作ったんだからさ。こんなの家族じゃなきゃ知らないみたいなのもあるでしょ?好きだけど外では食べにくいみたいって自分で言ってたくせに」
な、なんだこの感じ……なんとなく既視感のあるやり取り…というか自分と喋ってるような変な感覚
「……まじか…」
「だからマジだって言ってるじゃんか」
だとしたら、一体誰とのこどもなんだ?ていうかなんでここに?しかもどうやって部屋に入ったんだ?他にもなんか色々気になることあるけども!
「あーえっとねぇ。何考えてるかはなんとなくわかるけど全部には答えてあげられないんだ」
「過去に干渉しちゃいけないとか?」
まさか今俺は重大な事件の真っ只中にいるのではと固唾を飲む
「いや、別にそういうのじゃなくて時間ないだけ、あと全部答えるのは面倒」
「なんだそれ!」
ただのタイムリミットと怠惰という拍子抜けする返答に力が抜ける
そんなことはお構いなしに息子は語り始めた
「でまぁ、なんできたかってとこなだけど。とりあえず、今すぐ仕事辞めてここから引っ越して。できれば地元に帰って欲しい。あ、あと今の会社の人とは関係を絶つこと」
「は?な、何言ってんだ、いくら冗談でも」
「冗談じゃない。俺は真面目に言ってる」
急に仕事やめろとか引っ越せとか冗談でも笑えないことを言ってきたから物申してやろうかと思ったが、それよりも真剣なトーンで押し込められた
「……なんでだ?そうすることでなにか変わるのか?」
「うん。変わる。俺たち家族の未来が」
「家族の未来……」
現状家族のいない俺からするとなんとも実感の湧かない返事だが実際目の前に自分と血の繋がりのある気がする人間がいるとなぜか説得力を感じる
「父さんの今の会社の人、というか上司だけどやたら絡んでくるでしょ?」
「え゛…あぁ…まぁ、そう、だな」
思い当たる節がありすぎる。あのクソ陰険眼鏡上司のことだろうと1人の男の姿が過ぎる。入社した時からやたら難癖つけては文句言ってくるあいつ、なんなら仕事の邪魔すらしてくる…あ、思い出したらなんかムカついてきた
「そう。そのクソ陰険眼鏡上司。父さんのストーカーになるの」
「………はぁ?!?!なっななななんでだよ?!いつも明らかに俺のこと嫌ってますって感じ出してますけど?!え?!ストーカー?!なにゆえに?!」
「好きな人ほどなんとやらだって言ってたかなぁ。まぁ、んでね。そいつのストーキングが嫌になって結局父さんは今の仕事辞めるのさ」
「ほう…」
確かにそんなことになったら辞めるな。うん、絶対辞めてやる
「で、辞めた後に父さんのぱぱが再会して結婚。そんで俺が産まれるんだけど」
「ん?ちょっと待て!父さんとぱぱ?!」
「うん?そうだよ?」
父さんと言って俺を指差し。ぱぱと言って幼馴染と幼い日の俺と幼馴染の写った写真を指差した
「んんんんん????え?俺、あいつと結婚してこども作るの?」
「うん、そう。俺ね。でまぁ、それは決まった未来だからどうなっても変わらないから置いといて」
「いや!置いとけないだろ!」
男同士でどうやってとかそもそも何であいつととか!
「大丈夫大丈夫。気にしなくていいから。それよりもそのクソ陰険眼鏡ストーカーだけど、このまま今の会社にいるとめちゃくちゃ粘着質でタチの悪いのになるわけ。そんでもって仕事辞めて引っ越した後も追っかけてきて、俺たちの家に乗り込んでくるんだけど、父さんとぱぱ刺されちゃうんだよね」
「大丈夫じゃない………いや、え?後半なんて?」
「だから、粘着ストーカーになったクソ野郎が追っかけてきて俺を庇って父さんとぱぱが刺されて生死の境を彷徨うことになるんだよ。ていうか、今向こうではそうなってる」
庇われた俺はかすり傷で済んだけど…そう言って身体についた生々しい傷を見せられる
「………まじか」
あのクソ男がそんな…ていうか、俺のせいであいつまで巻き込まれるとか、だめだろ。どう考えても
「だーかーらーマジだって言ってるじゃんか。それでこうして未来を変えるためにきたってわけ」
「そう、なのか……」
確かに今となっては忙しさもあってあまり連絡取れてないが俺とあいつはいつも一緒にいて地元にいる時は双子みたいだね、なんて周りから言われてたっけか……
そんな自分の片割れみたいな奴が……
「……わかった。結婚とか息子とか云々は置いといて。あいつを守れるなら言う通りにする。あのクソ野郎の嫌がらせも度を越してきたから辞めてやろうかと思ってたしな!」
「良かった」
ほっと息を吐いた息子の身体がうっすらと消え始める
「そろそろ時間か…」
「帰るのか?」
「うん。次目を覚ましたときは2人とも起きてるといいなぁ…」
泣きそうな声で笑う顔になんとしてでも守ってやらねばと自然とそう想った
「父さん。未来で待ってるね」
「おう。待ってろ。絶対に会いに行く」
またねと言って手を振りながら消えていった
ていうか、絶対に会いに行くって、何言ってんだ俺
「いや、そんなことよりとりあえず辞表準備するか!!」
明るい未来のため、息子の笑顔を守るため
俺はやってやるぞ!!!!
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