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マッチ売りの娼年 3

「ご利用ありがとうございました」  少年の零したあまりにも固い声に人影は「は⁉」と声を上げて飛び上がったようだった。 「またのご利用をお待ちしています」 「ちょ  そんな、まだ触ってるだけ……」 「ですが、マッチ十本を使い切ってしまわれましたので」  返される言葉は先ほどまでの淫靡さのかけらもなく、人影は目の前の少年が違う人間と入れ替わったんじゃないかと疑いを持ちそうになったほどだった。  けれど、目の前の気配は一人だけだ。 「や、……でも、ちょっと短すぎるだろ⁉」 「マッチを上に向けられますと、もう少しは長持ちされたかと」 「ちょ、いや!そんなの知らないし!最初に言うべきだろ⁉」  人影はそう怒鳴りつけると暗闇の中で手を振り回し、少年のものらしき肩を掴んで力を込めた。 「  っ」 「こんなん詐欺だろ⁉」 「いえ、お客様は最初にマッチ十本分の時間を買われました、それを納得して擦られたはずです」  あくまでも少年の言葉は堅苦しく、人影は先ほどまでの淫らな時間がぶっつりと途切れてしまったことに、やり場のない熱と共に怒りを感じて「はぁっ⁉」と威嚇するように大声を上げた。  手の中の小さな肩がびくりと跳ねたのを感じた途端、人影はのしかかるように少年に向かって詰め寄る。 「マッチの使い方とか、何本買ってないと最後まで見れないとか教えてくれないのっておかしくないですか?おかしいですよね?これって詐欺だと思うんです、善良な商売してたら十本買った段階で足りませんよとか言うべきはずだろう?それを怠ったのがあんたが詐欺を行っているって証拠だろ?あーあ!こんなケチなことするんだ」 「……」 「でもケチでも詐欺は詐欺だし、警察にすみませんって言い出したらあんた、捕まるよね?噂になるくらいなんだからずいぶんとここで稼いでるんだろ?じゃあさぁ、警察に言われたら困るんじゃないの?ケチな商売でも君、これでお金貰ってるんだもんね?あーどうしよっかなぁ」 「何がでしょうか」 「善良な市民だからさぁ、こう言う詐欺行為は黙ってられないわけ、でもそれをしたら君が困るっているのもわかってるし、やっぱりそれは可哀そうだなぁと思うわけだよ」  肩を掴む手にじっとりと汗が滲み始める。 「俺だって可愛い子を苛めたいとかそんな性癖ないわけよ、わかる?俺はあくまで愛でたいんだよ、め、で、た、い!可愛がりたいんだ」 「……」 「ってことでさぁ、君の気遣い一つでこれは詐欺だなんて言わないし、俺は君の為を思って詐欺とわかっててもリピーターになってあげてもいいんだよ?」

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