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マッチ売りの娼年 6

「同意、していません」  ぽつんと漏らされた少年の言葉に若い男の顔から血の気が引いて……  若い男はいろいろと言い訳していたようだったがずるずると引きずられるように木立の更に向こう、目立たないように止めてあった黒い車両に連れていかれてしまう。  だからと言って少年は後を追うわけでもなく、ぼんやりと見送ってからパーカーを拾って再び元のベンチへと向かって歩き出した。  先ほどまでの騒動が嘘のように暗く沈んだ公園内は静まり返り、何もなかったかのようだ。  少年はまたベンチに腰をおろして傍らのビニール袋から幾本かのマッチ棒を取り出して、数をかぞえるように一本ずつ手の中に落としていく。  今夜のうちにこれが幾つ無くなるだろうかと考えながら、少年は肌寒さにわずかに身を固くした。    手の中に落とされた百円玉が幾つか。  それが少年の取り分だった。 「……ありがとうございます」  ぽつんと言う礼は、煙草を咥えた男に聞こえているのかいないのかはわからない。どちらにせよ男は返事をしないだろうし、少年も聞こえているのかどうかは気にしなかったからだ。  昨日の若い男が……いや、昨日の男だけではなくて、今まで連れていかれた何人かの人間の行方を聞く気にもならない少年は、男がごろりと寝転んだのを見てから部屋の隅へと行って膝を抱えた。  狭いワンルームの北側の角、そこが少年が生活できるスペースであり、少年の世界のすべてだった。  小さな子供が与えられるような熊のぬいぐるみだけが持ち物らしい持ち物で、服もすべて男からの借り物でしかない。  報酬だと渡された金の中から居候代を出して食事をしてしまえばもうわずかしか残らない、いや……残らない日の方が多かった。  だからと言って少年にここ以外に行く場所なんてなく……  うずくまるようにして眠った後は、夕暮れまでぬいぐるみを抱えて暗くなるまでじっとしている生活だった。  一本百円、それがマッチ棒の販売価格で、少年はその明かりがある間だけ痴態を披露する。 「マッチ売ってる?」  そう声をかけられて少年はびくりと肩を揺らした。  ここに来る客は大体が無言で金を突き出して、黙って後ろについて歩き、黙々とソコだけを見つめるだけだからだ。  少年は頷いて見せたけれど周りの暗さからかうまく伝わらず、仕方なく「売ってます」と返事を返す。 「じゃあ、これね」  手渡されたお札を指先で探れば…… 「あの、間違えてはいませんか?」  触り慣れない感触に戸惑って問い返すと、「え?」と逆に問いかけるように声が上がった。    

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