8 / 197

マッチ売りの娼年 8

 けれど男のマッチを持つ手は動かない。  擦った位置で留まったまま火が燃え尽きるのを待っているようだった。 「あ……もっと近寄ってもいいよ?」 「火傷をさせたら大変だろう?」  同意を求めるように尋ね返されても、少年は答えを持っていない。  少年はあくまでも商品だったし、金を払った以上はマッチをどれだけ近づけても構わないと思う客は多かったし、こちらからもそれ以上近づけるなとは言わなかった。  頼りない光量では、近寄らなければ何も見えないから…… 「 ぅ、ん  っぁ、  ァんっ」  男は二本目のマッチも同じ位置から動かさないままだった。  しかたなく少年は自分の指の感覚に意識を集中するために目を閉じて、瞼に淡く浮かぶ光を見つめる。  体重を後ろの木に預けて片足を上げると、指をその奥まりにそろりと這わしていく。  その指先に触れたとろみに少年は思わず肩を揺らした。 「どうかした?」 「……いえ、何もありません」  つい反射で返してしまった言葉に慌てて口を噤み、足を伝い始めた愛液を掬い取るようにしてから後ろのアナへとそろりと指を差し込む。  葉が擦れる音ですら大きく聞こえる場所で、少年の指先と体内が触れあって立てる粘ついて水っぽい音はやけに大きく響き渡る。  ぐずぐずのそこはあっさりと指を根元まで飲み込み、ぶちゅりと卑猥に粘液をまき散らす。 「ぁ゛ー……っ」  背筋を駆け上がるような快感に思わず内太腿が震える。 「ゃ、だ、  駄目っ」 「駄目?」 「だ、だって……こんな……」  瞼の向こう側で、やっと明かりが動いたのが見えて、少年はどうしてだかそれが嬉しくて泣きだしたいような変な気分のまま繰り返し首を振った。  指を入れた先から、どう言うわけだか溢れてくるいやらしい液体に少年自身が困惑していた。  Ωである少年の後ろのアナが濡れることは当然のことだったけれど、それでも少年が番から見捨てられたあの時からこんなふうにあっさりと溢れるように濡れてしまうのは初めてのことだ。  捕らえられていた場所からやっとの思いで逃げ出して、方々を探し回ってやっと番のαの居場所を見つけた時、その傍らには朗らかに笑う女性が腕を絡めるようにして立っていた。  絡まる手にはお互いペアなのだとわかるデザインの指輪がはめられていて……  女性は大きなお腹を擦っていた。  とるものもとりあえず、身一つ、這う這うの体でたどり着いた少年には、その女性のかけらも美しいところなんてなくて……  αは少年を見ずぼらしいものを見る目で見てすぐ去ったあと、はっとしたように振り返った。

ともだちにシェアしよう!