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マッチ売りの娼年 9

 その時の表情を見て、少年は振り返らなければよかったのに と思った。  せめて嫌悪の表情のまま行ってしまってくれていたら、少年は道ですれ違ったただの浮浪者だったのに、振り返って少年を見たαの目には、確かに疑いと憐れみと気まずさが見えていて……  少年がわずかに唇の形だけで「会いたかった」と告げる姿を見つめていた。  一番美しい と、  一番可愛らしい と、  番は君だけだ と、  愛している と、  囁いた唇をぐいと曲げて、αは何も言わずに少年に背を向けた。   「 ぁ、ん、ンんっ、ぃ、出   」    はぁはぁとどんどん息が荒くなってくる。  いつもよりはるかに気持ちいい。  自分で弄る、型通りのオナニーショーだと言うのに、動かない明かりに焦れているせいか、それともいつもと違う雰囲気の客のせいか少年は全身が性感帯にでもなったかのように感じていた。  風が吹けばぞわりと皮膚が粟立ち、視線を感じれば溢れた先走りが草の上へと音を立てて落ちてく。  いつもは適当に出している声も、自分の指に嬲られるままに任せてひっきりなしに上がってしまう。  シュ と何本目かわからないマッチを擦られて、再び目の前が明るくなった。 「んっ……まぶ  」  そこでやっとマッチがわずかに動いて少年の顔を照らす。  だらしなく開いた口から垂れそうになっていた涎を慌てて舐めとると、少年はつい男を覗き込むように首を傾げた。 「君、オメガなんだね」 「  ⁉」  傾げた拍子に髪がさらさらと揺れて……細い首についた歯形が金髪の間から見え隠れする。 「あっ……の、関係のないお話ですので」  さっとマッチを顔に近づけられて反射的に顔を背けると、結果男に首を晒すような姿勢になってしまう。  そこには、少年を見捨てたαが嚙みついてつけた歯形がしっかりと刻み込まれていて、少年がΩで、しかも番のいる立場と言うことを物語っていた。  そして、歯形があるのに番でない人間の欲望のために肌を晒していると言うことは……  少年の番契約が破棄されたことを男に教える。 「首……背面でしてるのを見せてもらえる?」 「え……」 「マッチ棒が足りなかった分のサービスだと思って、ね?」  消えつつあるマッチの明かりに照らされた男は決してそう言ったことに不足しそうな顔ではない。  むしろ周りが放っておかないだろうに……と少年は思いながら背中を向ける。  客に背を向けることは安全ではなかったけれど、どうせ向こうに見張りがいるのだから何かあっても大丈夫だろう と、少年は木に抱き着くようにして尻をつき出した。  

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