10 / 424

マッチ売りの娼年 10

 尻を突き出したからか濡れたソコが空気に触れてひやりと冷たく感じて……  そうするとここが屋外だった と少年の頭を幾分か冷静にさせた。  そうするのだと言われて、いつもはただ唯々諾々と従ってここで股を開いて見せていたと言うのに、今日に限ってそのことが理性を揺さぶる。  もう麻痺していたと思っていた常識的な事柄、秘すべき個所を晒している……それも人がいつくるかもわからないような屋外で。  しかもそれを数秒百円と言うわずかな金で売っている。  それが……   「ぁ……っ」  ふっと入り込んできた現実に思わず木にしがみつく手に力が籠る。  今、自分が行っていることについて…… 「……ゃ、いやだ  」  冷静になった部分に羞恥が入り込んだ瞬間、全身に震えがきてうずくまってしまった。  下生えのチクチクとした刺激を肌に受けることも、木の荒い表面に手をついて傷をつけることも、ましてや番以外の相手に肌を見せるなんて、かつていた場所では考えられないようなことだった。    真っ白になった頭では何も考えることができず、少年は空気を求めるように呻く。   「……ぅ、……っ」  すっと背後の明かりが消えてマッチが燃え尽きたのがわかったが、次の明かりがつけられることはない。  少年はすぐに次のマッチを擦るように促して、自分も続きをしなければならないのを理解していたのに振り向くことすらできなくて……  真っ暗な中で息を潜めるようにして、少年は恥ずかしさに動けなくなった。   「  ──── 今日は、ありがとう」  ぽつんと暗闇の中で漏らされたのは礼の言葉だ。  けれどその男が感謝の言葉を漏らすほど何もできていないことを知っていた少年は、暗闇の中で首を振る。 「ぁ、 のっ……」 「今日はもういいよ」  さっと肩にかけられたのは脱ぎ捨てたパーカーだ。  体温のかけらも残っていないはずのそれをかけられて……どうしてだかぬくもりを感じて少年は鼻につんと来るものを感じた。  よれたパーカーを握り締めて膝を抱える。  あの男が掴んだからか、なぜだかそれから男の香りがするようで鼻を押し付けてすん と匂いを嗅いだ。  洗濯されていない衣服の臭いと、それからその奥にわずかに男の香水の香りがするような気がして目を閉じる。 「あ、そっか……この香り……」  もう一度すん と鼻を鳴らすようにして深く吸い込めば、この香水が番だったαが好んでつけていたものだと気がついた。  だから気にかかったのだと、まるでマジックの種明かしをされてしまった気分で鼻白んでパーカーから手を離す。

ともだちにシェアしよう!