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マッチ売りの娼年 15

 この商売の最大の売り上げは美人局だ。  ちまちまと小銭を稼いだところで日々の稼ぎは知れている。だから本来ならヒデアキは朧を木立の中へ誘い、手を出させなければならないはずだった。  それを石山が難癖をつけて…… 「もっとドカンと稼がなきゃならねぇってのに!」  再びドン と蹴りつけたせいで車がぎぃと軋みを上げる、その音に怯えるようにヒデアキは腕の中のジャケットを強く握り締めて、「申し訳ございません」と反射的に謝罪を口にした。 「  っ! だから! その気取った口調をなんとかしろっつってんだろ!」  視界の端から迫ってくる手の動きにはっとしたものの、ヒデアキは避けることもなくぐっと奥歯を噛み締める。  がつん と頬骨の辺りから衝撃と、キンキンとした鋭い痛みが走って視界に白い星が飛び交う。  けれどそれでも、ヒデアキは堪えて抵抗らしい抵抗を見せないままだった。 「お高くとまって! どこのオメガか知らねぇけど、結局はアルファに捨てられた負け犬ってわけだろ⁉」  再び拳を振るわれて、ヒデアキの細い体は耐え切れずにシートへと倒れ込む。  小さな呻き声も上げないまま、鼻から出た血をとっさにパーカーの裾で押さえる。  自分の痛みよりも、自分の出血よりも、何よりも腕の中のジャケットのことが気にかかって、支離滅裂なことを喚き始めた石山から隠すようにジャケットをシートの奥へと隠す。 「チ〇ポが欲しくて欲しくてたまんねぇクソビッチのクセによ! すました言葉なんかいらないよなぁ?」  怒声と共に突き飛ばされて、小さな頭を力いっぱいシートに押さえつけられてしまうともうそれだけで呼吸がままならず、ヒデアキはもがこうとした手がうまく動かないことに気がついた。  うまく息が吸いこめず、吐いたところで妙に熱い熱気がシートに当たって跳ね返るばかりだ。  加減なんてものを知らない力でぎゅうぎゅうとめちゃくちゃに押さえつけられて……  ひぃと言う呻き声が掠れていたのがわかったのが最後だった。  乱暴な挿入だった。  自己本位でΩの体のことなんて何一つ考えていない、ソコが傷ついても構わないとでも言いたげな、壊すようなピストン運動に体を揺さぶられて、ヒデアキはうっすらと目を開けた。  揺れ続けるシミのある車の天井と、自分の上で何かを喚きながら犯すことしか考えていない石山の顔と……  ぶちゅぶちゅと激しい水音が響いているのを聞いて、ヒデアキは意識がない間にすでにナカに出されていたのかもしれない と、なんの感情も持たないまま思う。  

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