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マッチ売りの娼年 16

 ヒデアキが気持ちいいと思うところをすべて外して、ただただがむしゃらに腰を振る石山の姿はオナホを使って自慰をしているのと大差はなかった。  自分勝手で、  自分の快楽だけあればいい、  そんなセックスはヒデアキが何かを感じる前に石山が呻いたことで終わった。  余韻を楽しむようにぐいぐいと幾度か腰を押し付けてから、一仕事終えたとばかりの溜息を吐きながら石山はもそもそと体を起こす。    労わりの言葉もなければ文句すらない、すでにそこにヒデアキがいることすら意識の外にあるかのような態度で石山は運転席に面倒そうに戻ると、溜息を繰り返しながら面倒そうに車を動かし始めた。  乱暴な運転のせいで振動の激しい車の後部座席に転がっていると、ヒデアキは人形か何かになったかような気分でいることに気がついた。    遊ばれ飽きて、四肢を投げ出しておもちゃ箱の底に放り捨てられた人形だ。  飽きられた人形ならば、こんな扱いをされてもしかたがないんだ……と、胸の内で呟いてからそっと腹に手を置く。  ぐっと力を籠めればぶちゅ と粘液の飛び出す音がして、股の間を気味の悪い液体が流れ落ちていく。    胤を大事にして、無駄にしてはいけない。  そう言われて育った自分がこんなことをしているなんて……と罪悪感に襲われるが、だからと言って伝い落ちていく命の元を惜しむ気はヒデアキにはなかった。  足の間に垂れて白く乾いた精液を爪でこそいだ。  青臭い臭いを放つそれをせめて洗ってしまいたかったが石山はそれを許さなかった、風呂に入る日は二日後だ……と煙草で黄色い歯を見せてにやにやと笑う。  不衛生で、腹の中は気持ちの悪いままだった。  着替えもないこの状態で二日耐えなければならないのだと言われて、けれどヒデアキは抵抗せずに「わかった」とだけ言葉を返していつもの場所に膝を抱えて座った。  ヒデアキのスペースはとても狭いため、朧のスーツはたたんでぬいぐるみと一緒に膝に抱えるしか場所がない。  皺になるかと心配もするけれど、スペースから出て処分されてしまうよりはましだろうとぎゅっと胸に抱え込む。  ジャケットのタグを見れば、オーダーメイドで有名な店のものだ。  素肌でいるより解放感があると言われるほど体に馴染むシャツ、どんな鎧よりも身を守ってくれるスーツ、それから……? 他に言われていた評判を思い出そうとしたけれど記憶は曖昧で、ヒデアキは自分がもうそう言ったことからずいぶん離れていたことに気がついた。  つつましいが、華やかで美しい世界だったのだと、窓から見える隣のアパートの壁を見てヒデアキは思った。

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