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マッチ売りの娼年 19
「血が出ている」
朧の言葉にヒデアキは跳び上がり、そんなことないですと大急ぎで告げる。
けれどそれも目を射たマッチの火に遮られて止まってしまった。
「 ────っ」
ふっと光源が下に移動して消えた。
マッチを落としてしまったんだと、ヒデアキはほっと胸を撫で下ろしながら光の残像が残る目を押さえようとした が、ジクリとした痛みに声を上げてしまう。
「 っ! ……あ、し、失礼しました」
「これ はっ……っ、客に何かされたのか⁉」
「え?」
問いを問いで返すと言う不躾をしたにもかかわらず、朧はそんなことに気をかけないままにヒデアキの肩を掴んだ。
「こんな酷い状態で 「 ────っ!」
言葉を遮るように上がった悲鳴に朧は自分が力を込めてヒデアキの腕を掴んでしまったこと気づき、慌てて手を離した。けれど引き下がらずにそろそろと指先だけを肩に触れさせてから、「何があった?」と低い声で尋ねかける。
それは怒りを抑え込んでいるようで、ヒデアキはびくりと怯えて首を振った。
明かりの中この暗闇の中でヒデアキの行動がどれほど見えているのか……
「……何もございません」
「自分の顔を見た?」
ヒデアキは口の中でもご と否定の言葉を呟いた。
最低限の身だしなみすら整えられない人間だと思われるのが嫌だったのもあったが、そんな話よりももっと楽しい話をしたかったのもある。
「……」
無言のまま朧が立ち上がったためにひやりとした風が急に吹き付けてきて、さっと首筋を撫でた冷たさにヒデアキは身を竦めた。
マッチも擦らないまま会話が途切れて、朧が立ち上がってしまってしまったのだからこの時間は終わってしまったのだと、諦めて「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と早口で告げて俯く。
「何を言っているんだ、君も立って」
「は ?」
「医者に診てもらおう」
そう言うと手探りでヒデアキの腕を探して促してくる。
「あ、の、いけません! 私はまだ仕事中で……」
「仕事?」
朧の言う「仕事」に侮蔑の口調が混じっていたのを感じ取ったヒデアキは、飛び上がるようにして腕を振り払う。
「申し訳ございません、ですが 」
ですが と言葉を続けようとして何も浮かばない自分に、ヒデアキは口ごもってうつむいた。
「君の一日の稼ぎは?」
「……昨日は、七百円でした」
はっとしたような気配にヒデアキはますます身を小さくして、恥じ入る気持ちで満たされた胸を押さえる。
その金額がまともなことでないことぐらいヒデアキは知っていたが、それでもかまわないと思っていた……朧に知られるまでは。
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