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マッチ売りの娼年 21

 それは朧の誠実さを証明するものでもあったけれど、逆を言えば朧は自分に何も感じていないのだと言う証でもあって、ヒデアキはうら寂しさを感じて身を引いた。  こんな自分から、それまで無くなってしまったら何が残るのか?  自問自答に答えを持たず、ヒデアキはベンチにしがみつく手に力を込める。 「こ、こんなことをしていただく意味が……わかりません」  体は傷だらけで清潔とは言い難い、しかもこのような商売をしている、何より背後関係を考えれば関わろうとすることじたいおかしなことなのだと、混乱する頭で考える。 「私に、そんな価値はありません」  自身で言った言葉に胸がぐっとつまり、ヒデアキは一瞬息をするのを忘れてしまった。 「価値が必要なのかな?」 「……仰っている意味がわかりません」  価値がなければいけないのにその価値がない状態が必要かそうでないのかははっきりとしている。  今の自分が無価値だ と。 「君の価値を何に置くのかは私にはわからないけれど、価値はあると思うよ」  朧がベンチの前にひざまずくのを見て、ヒデアキは慌てて立ち上がって腕を引いた。  治安のいい公園とは言い難いそこはゴミなども多くてそんなことをすれば服が汚れてしまうのは必至だ、ヒデアキはそのことを懸命に伝えて立ち上がってもらおうとするのだけれど、朧は頑として立ち上がらない。 「じゃあ、治療を受けるって言ってくれる?」 「あ だから、それは必要なくて……」 「ならこのままかな」  ヒデアキの体格では朧を立たせることができずに、仕方なくその奇妙な我儘を飲み込むために頷いた。 「……わかりました。でもっ……許しを貰ってこないと……」 「貰っておいで、ここで待ってるから」 「それより、まずは立ち上がってください!」 「ふふ、気になる?」 「それは……はい」  どこかからかうような朧の声に困惑するも表情を窺えるほどの光量がないためにそれがどう言った感情で出されたものかわからない。  ヒデアキは今ほどマッチを擦りたいと思った時はなかったけれど、朧に促されて仕方なく木立の方へと歩き始めた。  けれど、その足取りは重い。  何と言って説得すればいいのか、それがまったくわからないからだった。  ほんの少し、何かが気に入らないだけで拳が振り上げられる時もあれば、まるで空気のように何を言っても気にしない時もある。  今、この瞬間の機嫌を想像してヒデアキは足を止めた。  このまま、朧がしびれを切らして帰ってくれるまでここでうずくまっていようかと、体をぎゅっと抱きしめて俯く。

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