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マッチ売りの娼年 22

 そうすれば、朧はあきれ果ててくれるだろうか?  そんなことを思いながらヒデアキはその場に立ち尽くす。けれどそれで長い時間を潰せるわけではない、不審に思った石山が様子を見に来れば朧と鉢合わせしてしまう可能性が出てくる。 「……」  じくりと痛む目の端を押さえて、ヒデアキは腹をくくって車の方へと歩き出した。  自分一人で殴られるのと朧を巻き込んでしまうのとを天秤にかけた場合、結果を考える必要すらなかったからだ。  風上に座って風を遮ってくれた優しさを思い出し、そっと胸を押さえてから車の窓ガラスを叩いた。  けれど……返事はない。  ヒデアキが働いている間は、石山はこの車の中でだらだらとして過ごしているはずだ。  遮光フィルムの貼られたガラスをもう一度叩き……やはり返事がないことに戸惑う。 「寝てる?」  ならば無理に起こすとまた機嫌を損ねるかもしれない、ヒデアキはどうしたらいいのかわからずに縋るようにしてもう一度ガラスを叩き……返ってきた沈黙にぎゅっと手を握り込んだ。  ドアを開けてしまえばいいだけの話だったけれど、以前勝手に開けて酷く叱られた記憶がそれを押し留める。  前に回って覗き込んでみるも暗い中ではうまく見えない、どうしたらいいのかと迷いつつもヒデアキはもしかしたら逆にチャンスなのかもしれないとはっと顔を上げた。  石山が眠っているのならばその間に行って帰ってこれたなら? 「叱られないし……朧さまの傍に、いられる?」  ほわりと胸を温めたような言葉にヒデアキはぱっと公園の方へと走り出す。  まだ朧はいてくれるだろうか?  もしかしたらぐずぐずしている間にいなくなっているかもしれない。  木立の中で時間を潰してしまったことを後悔しながらベンチに戻って……しんと静まり返ったそこに立ちすくんだ。 「あ……」  冷たいと感じる風の吹くそこに人影は見えなくて、ヒデアキは自分が遅すぎたことに胸が痛むのを感じてうずくまった。  自業自得なのだ と頭の片隅で言葉が響くのを聞きながら、つんと痛んだ鼻の奥をごまかすように首を振る。 「ああ、戻ってきてくれたんだね」  さっと肩にかけられたぬくもりに跳び上がると、それに驚いたのか「わっ」と小さな声が上がった。 「お 朧さま……」 「おかえり、許可は出た?」 「いえ……でも、眠っているようなので、その間なら  」  大丈夫 の言葉は咥内に消えた。  今になってそんなことないだろうと言う考えが浮かんで、浮かれたようにここに戻ってきてしまった自分を恥じるように身を固くする。

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