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マッチ売りの娼年 23

 そんなあやふやな事柄に朧を巻き込んでしまったことに、ヒデアキは怖気づいてしまっていた。 「よかった、タクシーを呼びに行っていたんだ」 「  っ……でも、  」 「待ってもらっているからおいで」  やっぱりやめる と言う前に手を引かれてしまい、思いのほか強い力でぐいぐいと連れていかれてしまう。  いつもはあのベンチに座って、木立を通って行く先の車までしか知らなかったヒデアキは周りの景色が変わっていくことにはっと息を飲んだ。  暗い掃きだめのような闇の底でずっとベンチに座っていたのに、ほんの少し歩いただけで街灯が見えた。  まるでスポットライトのようなその下に引き込まれて…… 「わっ  ま、ぶし  」  きらきらと光の降ってくるそこはヒデアキには眩しすぎて、目がくらむような感覚にめまいを覚えてふらついてしまう。 「あっ」 「大丈夫?」  朧の手がさっと伸びて体を支える、その手は力強くてこんなことでは揺らがなくて……まるでふわりと体重が無くなったかのように感じてヒデアキは目を瞬いた。  体が軽くなったのでは? と思えるほど柔らかく自分を支えてくれる腕に抱きしめられると、夢を見ているかのような心地になる。  まるでそれが重く粘つく闇の汚泥の中から掬い上げてくれるようで、ヒデアキは深く息を吸った。  「今、医者を呼んでいるから」と言う朧の言葉を聞きながら部屋に入り、かつて一度だけ訪れたことのあるホテルを思い出させるような部屋に立ちすくんだ。  そこも豪華なところではあったけれど…… 「こ ここは、何かお間違えでは?」  さっと振り向くけれど朧は意に介していないようにヒデアキを通り過ぎて部屋の中へとどんどんと進んでいく。  どこもかしこも美しい調度品で飾られたそこに入ることは、ヒデアキには酷く荷が重くて……入り口でまごつくようにして首を振った。 「さぁ、お入り」 「……」  公園の片隅でせこい商売をするような自分が立ち入っていい場所ではないことを感じて、促されたところでヒデアキは動くことはできない。 「たまたまここしか空いてなかったんだよ、ごめんね」 「そん……朧さまの謝られるようなことでは……それに、てっきり……」  病院に連れていかれるものだとばかり と口の中で呟く。  街角で男娼をしているような人間の手当を、まさかハイブランドホテルで行うなんて思うはずがない。  ヒデアキは今からでも公園に帰るべきだったのでは とさっとドアに手を伸ばした。 「大丈夫、手当以上のことはしないから」 「ちが  そのようなことは考えてはいません!」  叫びながら振り返った瞬間、目の前の朧にはっと飛び上がる。    

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