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マッチ売りの娼年 24
すぐ目の前にせまった朧の胸板にはっと息を飲む。
今にも鼻をぶつけそうな距離にたじろいでよろめくと、ひやりとした扉の感触が背中に触れる。
腕に囲われてしまえば……もうヒデアキに逃げ道はなかった。
追い詰められてしまったような気配にヒデアキは本能的な恐怖を感じて、ぎゅっと身を固くして息を詰める。
「あ 」
「やっぱり、酷い怪我だ」
けれど朧はそれ以上ヒデアキを追い詰めようともしないし、触れようともしない。
ただ戸惑うように指先を伸ばして、苦痛を感じている様子で顔を歪めるばかりだ。
「どうしてこんなことに……」
呻く声に答えられないまま、ヒデアキは間近で見上げた朧の顔を食い入るように見つめた。
すっとした鼻梁と、黒だと思っていた髪と瞳だったが実は瞳が少し茶色がかっているように見えること、それから優し気な目元と微笑めば魅力的だろうと思わせる唇を、視線でゆっくりと辿って行く。
それが不躾なことなのだと今までしつけられた経験が叫んでいたが、それが聞こえない程度にはヒデアキは朧の姿を見つめるのに夢中だった。
暗い公園でも、慌ただしい移動中でもなく、明るい場所でゆっくりと見上げた朧のαらしい恵まれた体格と風貌に、ぽかんとヒデアキの口が開く。
「医者が来る前に少し胃に物を入れる?」
「あ……」
ヒデアキは先ほどから馬鹿の一つ覚えのようにその言葉ばかり漏らしていることに気づいて、慌てて首を振った。
「いえ……図々しいとは承知ではありますが、お許しくださるのならば身を清めさせてください」
そう告げた自分にさっと朧の視線が向かうのが怖くて、両手でパーカーを握り締める。
それも、薄汚れていた。
自分自身を見下ろせば、皮脂の汚れと黒くなった血と……それから白く薄く筋を残すモノと……そんなもので汚れた体が目に入った。
よくホテルが通してくれたものだ と、恥ずかしさで顔を上げられずにヒデアキは項垂れる。
「傷に沁みない? 君が大丈夫なら好きなように使ってもらって構わないよ」
朧の言葉は、そんな姿を気にしていないものだった。
包帯の巻かれた手でフォークを持とうとして動かしにくさに顔をしかめた瞬間、朧がさっと席を動かして隣へと腰を落ち着ける。
何をするつもりだろうと怪訝な表情をしているヒデアキに、朧はさっと切り分けられたフレンチトーストを口に運ぶ。
「ひ 一人で 」
「使いにくいだろう? 怪我人は甘えたらいいんだよ」
すい と促すように手を動かされてしぶしぶと口を開くと、とろりとした甘いパンが入ってくる。
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