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マッチ売りの娼年 26
「では、擦りそこなったマッチの分の働きだと思えばいい」
今日買った分のマッチの量を思い出しながら、ヒデアキは微苦笑を浮かべて肩を竦める。
「それでも釣り合う分だとは思えません。もうこれで、お暇させてください」
「 ……」
朧は何かを言おうと口を開くも、悲し気に食事の並ぶテーブルを見てから再びゆっくりとヒデアキに向き直った。
静謐さを湛えたような端整な顔はそれだけで人を制するような圧迫感があって、ヒデアキは決心した心が揺らぐのを感じてさっと目を逸らす。
けれども朧の視線から逃げられたわけではなくて、居心地悪くもぞりと尻を動かしてから耐え切れずに立ち上がった。
「服はどこでしょうか?」
「……服は、処分させたよ」
「え⁉」
ヒデアキはとっさに朧の方を見てしまったことに後悔した。
まっすぐ射貫くように見つめられている。
けれどそれは石山の威嚇し、人を押さえつけるためのものではなく……
「ずいぶんとくたびれていたから、新しいものを用意させている」
「あ……でも、いただけません! 以前のもので構いませんので返していただければ 」
「もうきっとゴミの収集車に集められてしまっているよ」
穏やかに言われて、ヒデアキはそう言うものなのだろうかと思うしかない。
街角にあるごみ捨て場に時折車が止まっているのを見かけはするけれど、それがどのタイミングなのかヒデアキにはわからなかった。
ましてやこう言ったホテルではどうしているのかも……
「そ そんな……」
「サイズも合っていなかったようだしね」
「借り物だったので」
そう言いながら石山になんと言えばいいのかいい考えが浮かばず、ヒデアキは項垂れて足元を見た。
許可も取らず公園を離れて、
許可も取らず服を着替えた。
手当も、風呂に入ったことも。
すべてが石山の気に障るだろうと思うとぶるりと肩が震えてしまう。
「そう、借り物だったんだね。じゃあお詫びも用意するからそれで勘弁してもらおう」
「どう……でしょうか……」
石山がそんなことで機嫌よくなるとは思えなかった。
むしろ、貸した服を勝手に処分されたことを理由に朧に無理難題を吹っかけるのだろうと思うと、ヒデアキは首を振るしかない。
「いえ、大丈夫です。もう、朧さまは気にしないでください」
「そんなわけにはいかないよ」
さっと伸ばされた手は避ける間もなく、肩を包み込まれてしまう。
大きく力強い手だったけれどヒデアキに触れる力はふわりと柔らかく、決して力でどうにかしようとしていないことが窺えた。
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