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マッチ売りの娼年 28

 ヒデアキ自身が自分の体に価値を見出せず、目の前にいる朧よりも更に遠くから自分を見ているような声音で「価値がないんです」と繰り返す。 「何に価値がないの?」 「私です」 「私にはわからないのだけれど」  そう言われて包帯にまみれた自身の体を見下ろす。 「傷があります」 「私にもある」 「もう番を持てません」 「番だけがあり方ではないだろう?」 「……この腹には、他の胤が入りました」  あまりにも赤裸々な物言いにさすがに朧は顔をしかめるようなむっとした表情をする。  そうするとヒデアキはほっとしように体から力を抜いて、落ちてしまったバスローブを拾う。 「私は、戻ります」  バスローブでも外に出ることができるだろうかと考えを巡らせているヒデアキに、朧はさっと近づいてその手からバスローブを取り上げてしまう。  それはヒデアキが初めて見る朧の乱暴な姿だった。 「また体を売る生活に戻る?」 「……けれど、どこに戻っても同じです、結局は……相手が誰かだけで」  ヒデアキはかつていた場所を思い出そうとしたけれど、慌てて首を振ってごまかす。 「同じ 同じ……なんです」  石山の傍も、帰らなければならない場所も。  結局自分は価値を失ったΩでしかないのだ とヒデアキは取り上げられたバスローブに視線をやる。  世間知らずなヒデアキでも、さすがに裸体で出歩くのはまずいと言うことはわかっていたから、どうしたらいいのかと顔をしかめた。  ちりちりとしたような焦燥感は消えてはおらず、石山が眠りから覚めて自分を探していたら……と思うと震えそうになる。 「同じ? そんなにひどい場所だった?」 「……いえ、美しい場所でした」  規則正しく、すべてが律されたそこはヒデアキには息が詰まるほど窮屈な場所でもあって…… 「美しいのに、今と同じなの? そんな場所だった?」  ぼんやりと朧の言葉に答えながら、ヒデアキはどう言った場所か告げようとした唇をさっと一文字に結んだ。 「……」  引き結んだ唇に触れて、ヒデアキは朧を見上げる。  先ほどのやり取りから朧は一体何を言わせたいのだろうかと頭の片隅で考えながら、「バスローブを返していただけませんか?」と努めて冷静な声を出して言う。  今までの朧だったならばすぐに返してくれるか、新しい服を持ってきてくれそうなものだろうけれど…… 「あ……」  自分を見下ろす姿を見上げ、ヒデアキは体が震える感覚に崩れ落ちそうになる。  穏やかな表情は変わらないはずなのに、見下ろす朧の優しい目元は硬質で……

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