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マッチ売りの娼年 29
「どこでも同じです、私のものなど何一つないこの世界は……」
どこでも同じ。
例えそれがここを裸で追い出されたとしても、ヒデアキはそれが当然と思っただろう。
自分の手には何も溜まらないし、何も残らない。
だから、どこにいても同じ。
「だから、石山のところに帰らないと な の、で 」
繰り返すヒデアキは朧に見つめられて言葉を無くしていく。
黒い……けれど英知を宿したかのように室内の光を宿す瞳に魅入られるように、ヒデアキは呆けたように動きを止めた。
まるで何かを探すような間だった。
「……私はなぜ、帰りたがっているんでしょうか?」
自身の問いかけなのにヒデアキは答えを持ってはおらず、自分の口から出たその言葉を咀嚼して飲み込んで理解しようとすればするほど混乱していくことに、戸惑うように膝をつく。
追いかけるように朧も膝を折るのを眺めて、その瞳で見つめられて……
混乱を口に出してしまうと何かが崩れそうでヒデアキは慌てて首を振る。
「違います、すみません……」
自分が「帰る」と言ったのに「なぜ」と返す葛藤にぐらぐらと足元が揺れるようだった。
これ以上倒れないようにと手をついたけれど、それでも揺れ続ける世界にヒデアキは吐き気を覚えてぐぅっと喉を鳴らす。
胃の中身をぶちまけそうになるも、幸いにして先ほどの小さな二口分しか入っていなかったためにみっともない姿を見せずにやり過ごすことができた。
何かがおかしい と額を押さえるとひやりと冷たく、滲む冷や汗に体温を奪われているようだった。
「朧さま……」
「君の帰るべき場所は?」
「…………」
カァン と竹の打ち鳴る音が脳裏に響いた気がして、ヒデアキはさっと耳を押さえる。
そんなことをしても幻の音が消えるわけではないのに少しでもそうしなければいけないような気がして……
「思い出して」
「なに わからないです」
ぎゅうと力を込めたせいで髪が引っ張られてギチギチと音が骨を伝って聞こえてくる。
ヒデアキは……
「ヒデアキくん」
呼ばれた名前にヒデアキは緩く首を振った。
「ヒデアキでは ないです」
ぽつんと返した後、少年はぐったりと疲れたように突っ伏した。
そこは竹に囲まれた陸の孤島だった。
どこへ行くにも通らなくてはならない竹林は歩けばずいぶんと時間がかかる。
故に、外の光景と言うのも見たことがなかった。
そんな閉ざされた世界が少年のすべてで、その世界ですべてが完結してしまうほど小さな世界で少年は生きていた。
「今日も退屈ぅ」
蹴り出すように足をばたつかせながら少年がそう声を上げる。
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