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マッチ売りの娼年 30

 そうすると「少年の」兄がその無作法さを咎めるように「駄目だよ」と言ってくる。  きつい言い方ではなくて、諭すような物言いだったのにそれがどうしてだか少年には面白くなかった。  頬を膨らませるのは、顔のラインが崩れるからとしてはいけないことだったのに、わざとその規則を破って少年の兄に向って膨らました頬を突き出す。 「こら!」  さすがに怒ったのか声が大きくなったけれど、ここではそれだけだ。  ここに住む者同士、手を上げるような喧嘩をしてはいけないから、幾ら腹が立とうが少年の兄は口を酸っぱくして言い続けるしかできない。  かぁん  竹の打ち鳴る音に跳び上がる。  いつものことなのにどうしてそれにびっくりしたのか、少年は不思議に思って廊下の方へと向かった。  その先にあるのは青々とした竹林で、何年も何年も見続けた飽き飽きしていた光景だ。 「ほら、そんなことをしていると、旦那様に可愛がってもらえないよ?」  そう言うと少年の兄は少年の頬を優しく撫でるようにマッサージし始める。 「せっかく、天元になれる素材だって言われてるんだから、大事にしなきゃ」  天元?  少年は心の中で繰り返した。  この閉鎖された空間のトップだ。  空間の限られているここでは二人部屋でも贅沢な方で、大部屋では何人もと寝食を共にすることが普通だった、けれども天元になれば一人で贅沢に部屋を使うこともできるし、自分達を買いに来る客に「No」と言うこともできる存在だ。  けれど少年は、そんな存在になったところで……と冷めた目を向けた。    なぜならここは上級αが子供だけが欲しい時に通う場所だったから……  いつかはやってきたαに買われて、この腹でそのαの子供を産まなくてはならない運命は、この空間に生きている以上、必ず迎える運命だった。  そしてこの世界は、客であるαに望まれた時のみ連れ出してもらえる。  それができなければ、ここにいるΩはずっとこの竹でできた窮屈な鳥かごの中と言うわけだ。  やってきた客に股を開く。 「今と何が変わるって言うんだ」  そう呻くように言った少年に、少年の兄は「どうした?」と様子を窺ってくれる。  ここにいる者達は、本来なら誰と誰が兄弟姉妹であるなんて教えられずに過ごす、けれども少年と少年の兄は特別で、幼少の頃に教えられていた。  人間関係の希薄なここで、「少年の」とつく兄に、少年はとても執着していた。  何せ狭い空間にたくさんの人間が暮らしているのだから、大体のものは共用とされていて、「自分のもの」と言えるものは非常に少ない。

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