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マッチ売りの娼年 31
だから、「少年の」兄は「少年の」ものでなくてはいけない。
「でも、俺のじゃないよね?」
問いかける少年に「少年の」兄は答えないままで、何を言っているのだと言うふうに首を傾げるだけだ。
そうすると艶のある美しい黒髪がさらりと揺れてその首筋をあらわにする。
それは、「少年の」兄が「少年の」ものではない証で……
丁寧に育てられて傷一つない肌に楕円の羅列が円く刻み込まれたソレ、心を抉るような嫌悪感を持たせるαによる噛み痕だった。
「どうして俺のじゃなくなったの? どうして俺のなのに離れて行ったの?」
穏やかに、少年を諭すように微笑む「少年の」兄は表情を崩さないまま答えを返すわけではない。
繰り返し繰り返し、尋ねかけても記憶の中の光景が独り歩きすることは絶対になくて、答えを知ることはできないままだ。
「なんで! どうして! ────っ!」
金切り声を上げて少年は掴みかかろうとした。
あまりの息苦しさに首を絞められているのだと思った。
少年はもがいてもがいて息を求めて自分の体に伸ばされていた腕を払い、やっと吸い込めた息を使って「放せ!」と悲鳴を上げる。
「目が覚めたね」
詰まるような呼吸を繰り返しながら辺りを見回して声の主を探すと、薄暗い部屋の隅に人影が立っているのが分かった。
そして手前……暗い中でも顔が見える距離に朧の顔が見える。
先ほど振り払ったのは朧の腕だったのだと気づいた少年は、はっと飛び起きようとした。
飛び起きようとはしたのだ。
けれどガクンとありえない衝撃に腕と足を引っ張られて、叩きつけられるようにベッドに倒れ込んでしまう。
スプリングの効いたベッドは少年に痛みを与えることはなかったけれど、それでもその衝撃は少年の息を詰まらせるには十分だ。
「息をゆっくり吸うんだ。それから、動かないように」
「え……?」
朧の言葉はいつも通りの冷静さに聞こえたが、少年は自分の様子を見下ろしてそんな冷静な状況ではないことに、悪寒と嫌悪感に襲われる。
この男は何を言っているんだろうか? と、少年は警戒の色を目に浮かべる。そうする理由は自分の腕や足がロープでベッドに括り付けられているからだ。
決して強くくくられているわけではないし、身じろぎもできないほど手足を伸ばされていると言うわけではない。
けれどこれははっきりとした拘束だった。
かろうじてバスローブを身には着けていたために裸ではなかったけれど、この状態が異常なことはさすがに少年でもわかる。
「診ようか」
奥にいた男がそう言って近づいてくるから、少年は警戒してなんとか抜け出すことができないだろうかともがく。
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