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マッチ売りの娼年 32

 手足をばたつかせる度にぎし とロープが重い軋みを上げる。  太くないように見えても非力な少年にとってそれは鎖と同じ拘束具だった。 「ゃ……ど、どうしてこんなことを……」  男の手が延ばされたことに、先ほどの息苦しさを思い出して少年は怯えて首を振る。  これ以上逃げられないのに可能な限りロープを引っ張り身を引くも……狭いベッドの上ではそれも無駄な抵抗だ。  男が近寄ってきたためにその顔立ちがはっきりとわかる。  しっかりとした顔立ちで朧とは似ても似つかない……兄弟というわけではなさそうだったが、けれど纏う雰囲気は一緒だった。  育ちのいい とわかるような様子で、石山のような粗雑な雰囲気はなく自分に自信があるのかどこかゆったりとして見える。 「気分は?」 「……いいように見えるのでしょうか?」 「おかしいと思うところは?」  逸らした顔にもひるまず、男は喉元に触れて尋ねてきた。 「……この状況がおかしいと思います」  ぶるぶると震えだしそうになりながら告げた少年の言葉に、男は「あはは」と軽い笑いを漏らす。  少年の言葉を笑ったそれが酷く神経を逆撫でするようで、逸らしていた視線を向けてさっと睨みつけた。 「いいね、気が強い」  それが意図に反して男に気に入られてしまったと言うことに、少年はむっと眉間に皺を寄せる。 「お 朧さま、縄をほどいてください。……こんなこと……   」  許されるはずがない と続けようとしたところで少年は言葉を止めた。  幾ら今の状況がおかしいことだと訴えて、このロープがどうにかなって逃げだせたとしても少年には申し出ていく場所がないと言うことに気づいたからだった。  少年は……保護を求めることができない。  自分は何にも守られていないことに、さぁっと血の気を引かせて震えをこらえる。 「なぜ……こんなことを?」  腕が自由だったならば少年は自分の喉を擦っていただろう。  目を覚ました際に感じた息苦しさを思い出しながら、傍らで立ち尽くす朧をそっと見上げた。  それは一抹の「冗談だよ」の言葉を期待する行動でもあったけれど、硬質な目元はそんな言葉を告げてくれそうな様子はない。 「朧 さ、ま?」 「はは、君、そんな名前教えたの? 悪趣味だねぇ」  男はやはり面白そうに言うと懐から銀色の小さなケースを出し、そこから注射器を摘まみ上げた。 「え……」 「暴れなければすぐ済むよ」 「や……、それ、何ですか⁉ ゃ! ……っ」  ぎ ぎ とロープが締まって悲鳴のような音が上がるけれど、少年はわずかも逃げられない。

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