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マッチ売りの娼年 39

 周りの支えもなく、しかるべき治療も受けないままのその命を支え続けたのが、『F13』と呼ばれる特殊な麻薬だったと言うのはなんとも言えない皮肉な話だ と、惟信に告げずに胸中で呟く。 「薬を抜いた後、どうするんだ? わかっているとは思うが、番契約を切られたオメガのケアは……」 「わかっている。俺が支える。絶対に支えてみせる……そのために探したんだ」  友宏の番が蛤貝ではないと知ったその瞬間から。  けれど、番契約を破棄された『盤』のΩの扱いを聞いてそこから救い出そうとした時には、蛤貝はすでに姿を消してしまっていた。  竹に囲まれた世界でしか生きてきていない蛤貝の逃亡はすぐに終わると思われていた、けれど彼の逃亡はうまくいき……『盤』からの追手も、惟信の追手も彼を見つけることができなかった。  その結果……公園であんな形で身を売っているなんて……  最初に声をかけてすぐに連れ帰ることができなかったのは、惟信が蛤貝の顔を見たことがなかったからだ。  惟信が蛤貝で知っていることと言えばあの小瓶に入っていたわずかなフェロモンの香りだけで……  どんな声で話すのか、どんな表情を作るのか……何も知らなかった。  契約者でないからと写真を見せてもらうこともできず、友宏に首を噛まれたことによってフェロモンでの確認もできない。 「よく探し当てたもんだよ」 「……なんとなく、あっちのほうにいるんじゃないかってわかった気がしたんだ」  そう言って酒に濡れた唇を弧に歪める。  瀬能はそんななんの根拠もないことを……と言い返してやりたくなったけれど、そう言えばと言葉を飲み込んだ、αのする行動に『なんとなく行動』と言うものがあるのを思い出していた。  αがなんの根拠もなくやってみよう! と思ったことが後々に番のΩの為になる と言う現象の話だけれど。  姿のわからない人間を探し出せ と言う割にあっさりと見つけてしまったのを鑑みると、眉唾では? と言われることもあるこのαのなんとなく行動にも説明がつくような気がして、瀬能はもう少し調べてみようと言う気になる。 「今度こそは間に合った、今度こそは俺が見つけた、今度こそは……あいつになんか渡さない」 「そうだね、捨てたアルファには退場願わないとだね」 「勿論だ、蛤貝をあいつに会わせる気も何か言わす気もないからな」  ぎらりと酒の色を反射する瞳は肉食獣のソレだ。  生まれのことで、今までは何を言われても聞き流せばいいと思っていた。けれどこれからはそんな奴らに、もう二度と黙ってはいないと決心するかのような強い意志が垣間見えた。 END.  

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