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落ち穂拾い的な 目覚めの朝に1

 灰色のコンクリートで塗り固められたような眠りから目覚め、部屋を満たす朝の光を見た時、少年は生まれ変わったような気分がして、頭が随分とはっきりとしていることに気が付いた。  まるで生まれ変わったかのような……とは言わないけれど、身の内を清涼な水が流れていったかのようなすっきりとした感じが胸を満たしている。  それは、弾けるように世界に色が色づく感覚だった。  体中は疲労感と筋肉や頭の痛みで決していい状態ではないと言うのに、心は晴れ晴れとしていて、世の中には気持ちのいい風が吹くことも、金色の光が頭上から降り注いでいることにも初めて気づけたようなそんな新鮮な感覚に支配されている。 「……き もち、い」  枯れた声ではきちんとした言葉を紡ぐことができなかったけれど。  自分が生きているのだと今気づき、そしてそれを叫びだしたい気分だった。 「蛤貝」  名を呼ばれ、風船のように膨らんでいたそれが急激にしぼみ、色を失った。  迎えが来たのだ……と、光を受けていた手がぱたりと力なく布団の上に落ちる。    死ぬことがなかったのだから良しとするべきなのか、それとも死にぞこなってしまったから悪しとするのか判断はできなかった。  また『盤』に戻って不特定多数のαの子供を産む生活に戻ったほうが幸せだったのか、それとも番相手以外とこれ以上体を重ねる前に死んだほうがよかったのか。  正直なところ、そのどれも蛤貝の求めているものではなかった。 「お手を……煩わせてしまいました。神田様には幾ら謝罪の言葉を重ねても足りません」  惟信のほうを向いて指を突き、深く頭を下げた蛤貝はそう言うとそのまま動かない。   「顔を上げて」 「いえ、神田様にはこれ以上、厚顔をお見せすることは……」 「見せて」  傍で気配がしたかと思うと、男らしい手が顎を掬い取るように動いて蛤貝の顔を上げさせる。  それは強い力ではなかったけれど、有無を言わさない程度には強固なものだった。 「日の光の元では初めてだね」    何一つ闇を纏わないその空間では、隠そうとしてもそのすべてがさらけ出されてしまって……  蛤貝は自分の体を見下ろし、その汚れくたびれた様子に惟信の目にさらしていいものではないと判断して身をよじった。 「逃げないで」 「いけませんっ……私は、今、汚れて……」 「知っている。君の体を清めていたのは私だからね」 「きよ  っ何をされているんですか⁉」 「他の人間に触れさせたくなかった、だから私が全部世話をしたんだよ。苦しかったろう? 薬を抜くためとはいえ……」  

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