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落ち穂拾い的な 蛤貝の心配1

 透明はホテルの汚れ一つない窓ガラスにそっと手を置き、はるか彼方まで見通せる景色を見やりながら溜息を吐いた。 「? 透明。何か悩みごとかな?」  惟信はデスクで書類仕事をしていたと言うのに、その透明のこぼした溜息を聞き逃さなかったのか怪訝な顔を上げる。  あれから随分と頬も丸くなり、黒い艶のある黒髪も復活した。  体についてしまっている怪我は医者に診てもらっていて、ある程度は時間経過に期待するしかない。  書物でもゲームでも、惟信は透明がわずかでも口に出したものはすべて揃えて与えているために、透明の周りは常に物であふれかえっていた。  けれど…… 「いえ……ただ、気にかかって」 「何を?」  そう言うと惟信は仕事の手を止めて透明の横に座る。  仕事の邪魔をしてしまった……と透明が申し訳なく思ってうつむいていると、大きな手がほんのわずかにかさつく手を握りしめた。 「聞かせてくれる?」 「……ぁ。その、石山の  」  その名前を出すと、普段温厚な惟信にさっと緊張感が走るのを透明は知っている。  自分に、薬を打ち、犯し、美人局させ、暴力をふるった男。 「違うんです! 石山の部屋に置いてきたクマのぬいぐるみが……」  そこまで言い、透明は自分がクマのぬいぐるみに執着を見せているのだと気づいてはっと口を押さえた。  あのクマは、この惟信が与えてくれたこの部屋のどれよりもチープな代物だ。  すべて君のものだよ、と言って渡されたものなので透明の周りにあるものはすべて透明のものであるはずなのに……  どうしてだか、それよりも価値のないあのクマのぬいぐるみが忘れられない。 「……ぬいぐるみ? が、欲しい? すぐにいろいろ持ってこさせるから……」 「あ、  ちが  」  惟信が呼びつけた外商は、きっと素晴らしいぬいぐるみを多く用意してくれるだろうことは考えなくてもわかることだった。  欲しいと言えば好きなだけ与えてくれることも……  でも、 「違うんです、石山の家に置いてきたクマのぬいぐるみは……俺が初めて手に入れたものだから  だから、……その 」  安っぽい人工毛皮に雑な縫製、プラスチックの目玉、ペラペラの接着剤で引っ付けられたリボン。  その姿が忘れられなくて…… 「そのクマのぬいぐるみが欲しいんです」  透明はこの時初めて、惟信にはっきりと自分の心から欲しいものを告げることができた。  車から降りた時、惟信は不機嫌な……いや、不機嫌と言うよりも警戒するような表情をしていた。  目の前にはなんてことはない、くたびれたアパートが建っている。  

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