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落ち穂拾い的な 蛤貝の心配4

「惟信様、随分とお世話になりました、この御恩は身請けしていただいた分も含めて、わずかずつ生涯に渡りお返しさせていただいてもよろしいでしょうか?」 「透明⁉」 「本日を持ちまして、惟信様のお傍からお暇させていただきたく存じます」 「は  ?」 「惟信様には長い間面倒を見ていただき、誠に感謝しております」 「ちょ、ちょちょちょ……なんでそんな話になっているのか聞いても?」 「……? はい」  そう言うと透明は少し頭の中を整理するためかゆっくりと首を傾げた。  さらりと落ちた黒く戻った髪が首筋を撫でて、その白さを浮き彫りにするように映えさせる。 「神田友宏様から契約を切られました私は、『盤』でもっとも下層の人間が仕事をするための部屋におりました」 「……ああ、聞いている」  そこがどのような部屋なのか、柔らかなベールに包んだ言葉で懇切丁寧に説明された時のことを思い出して、惟信は顔をしかめた。  惟信のぴりつくような気配に透明は慌てるでもなく苦笑を漏らし、腕の中にいるクマのぬいぐるみを優しく撫でる。 「とりあえずオメガに産ませた子が欲しいお客様や、子を儲けると言う建前で性処理にいらっしゃるお客様、様々なお客様にお会いしました」  「会う」の言葉が何を指すのかを深く言わないところで、惟信は苦いものを口に含んだかのように眉間に皺を寄せて透明から視線を外す。 「外に出てからは、石山もそうではありますが、命じられるままに不特定多数の方と」    膝の上のクマを撫で、透明は口角を上げてみせた。 「ですので、私がお傍にいることはいいことではないと考えました」 「どうしてそうなるっ!」  狭い車内に響き渡った怒声に、透明だけでなく運転手も驚いたようでルームミラーに映る目が今にも飛び出しそうなほど大きくなっている。 「惟信様はお優しい方です、うらぶれたオメガ一人見捨てられないような……けれど、私のような者がお傍にいては今後、奥様がご不快に思われます」 「奥……っ⁉ 妻はいない!」 「今はいらっしゃらなくとも、いずれ娶られることでしょう」 「君がいるのに! そんなことするわけがないだろう!」  どん と車体が揺れる。  縫い付けられるように惟信に背もたれに押し付けられて……透明は一瞬詰まった肺に空気を入れるために喘ぐように口を開いた。 「伴侶になって欲しいと言ったはずだ」 「……私は、捨てられたオメガでございます。一時の遊びのお相手にはなれても……」  体の拒絶は意志ではどうにもならないもので、それは性交だけでなく受精にまで影響を及ぼす。  番契約を切られたΩの受胎率は他のΩに比べて随分と落ちる。  

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