46 / 197

落ち穂拾い的な 蛤貝の心配5

 「αの子供を産むこと」が生業の場所で生まれ育った透明には、そんな自分を傍に と望む惟信の考えは理解しがたいものだった。  ゆえに透明は、自分は慰めのために使われるのだろうと信じていた。  愛玩のための……  けれど惟信はあの日以来、キスの一つ、いや……指の一本も触れようとしない。  結局、最終的に透明が出した答えは「惟信は甥の不始末をする面倒見のいい人」と言うものだった。  身請けしたや伴侶などと言う言葉を使うから、そんなはずは……と思いつつも期待を抱いていたのだけれど、その期待がしぼんでしまうには十分な時間が過ぎていた。  友宏に似ている部分があるからだろうか?  それとも紳士的ににこやかな笑顔を向けてくれるところだろうか?  もしくは、仕事をこなす横顔が?  胸に生まれた淡い憧れに近い感情を、透明は持て余して持て余して……そして自分の身を省みて、これが一番だと結論を出した。 「ですので、お世話になりました。荷物もまとめてありますので……」 「こ ここを出て、どこに行くつもりだ?」  血の気を失ったような惟信は今まで見た中で一番取り乱しているように見え、透明は困ったように眉尻を下げる。 「まさかあいつの……友宏のところに……」 「御心配には及びません、友宏様には会いにはいきません。オメガの自立支援をしている場所に連絡は取ってあります、しばらくはそちらに厄介になりながら私にもできそうな仕事を探そうと考えております」 「なっ 待っ……」  はっきりと今後の話までされてしまい、惟信は口をはくはくと動かして言葉を紡ごうとした。  けれど出てくるのは曖昧な言葉ばかりで、透明はその態度に曖昧に笑い返すしかできない。 「惟信様には、感謝してもしきれない恩をいただきました、心よりお礼を申し上げます」 「私は恩なんて……っ待て! 透明! 私は君を手放す気はない!」 「……惟信様が自ら監視されなくとも、生活はすべて定期報告でお知らせ致します」  この数週間、惟信は家にも帰らずに透明のいるホテルで過ごし、仕事もそこで行っていた。  それが社会人にとって普通の生活ではないことぐらいは透明にもわかる。  透明は惟信と同じ空間に共にいることに幸せを感じてはいたけれど、それは一方的なものだと思っていた。  まるで、擦ったマッチの先端の炎が見せたような幻なのだ と。  『盤』で育ったからか、身の引き方もしゃしゃり出ないように律する方法もよく叩き込まれている、惟信の望まぬ形でΩを傍に置くことになって気まずい思いをしているのだろう と。 「君は……私が嫌いなのか?」    

ともだちにシェアしよう!