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落ち穂拾い的な 蛤貝の心配6

「嫌いなわけないでしょうっ!」  惟信の言葉に返された怒号に、今度は惟信が目を丸くした。 「惟信様は素敵な方です、お顔立ちは言うに及ばず、部下の皆様が惟信様を見ている目で、どれほど慕われているかがわかります。お荷物のオメガにすら丁寧に接してくださる優しさも、必要とあらば毅然としているお姿も、…………好ましく……お お慕い、しております」  告げられた言葉にはっと息を詰めた惟信につられて、透明もはっとした表情をする。  するりと口をついて出てしまった気持ちに、驚きに大きく見開いた目にお互いの姿を映して…… 「透明」 「は はい」 「私は君を一生涯の伴侶として、妻として、夫として、パートナーとして、傍にいてもらいたい」  はっきりと出された言葉に透明の手が小さく震えだす。  そんなはずはない、と。  こんな汚れた自分に、誰かが手を差し伸べるなんて と。 「……御冗談を」 「冗談なんかじゃない!」  至近距離で言うにはあまりにもな大声は、透明の耳をわんわんと傷めつける。 「お戯れもこの辺りで……世慣れていないオメガです、あまりに言い募られると本気にしてしまいま   」 「本気だと言っている」  優しさを湛えた目元に真剣さを滲ませて、惟信はそっと透明の手を取って爪の先に口づけた。 「透明。君の項を噛ませて欲しい」  ぱく と透明の唇が開きかけて閉じる。  噛んだところで無駄です と答えようとしたのに、どうしてかその言葉を言いたくはなかった。  なぜなら、透明自身も叶うならば……  そんな儚い夢を見てしまったから。 「わた  わ、私の、項は……」  ただただ、『盤』から逃げ出したくて、自分に好意を見せていた客を唆してつけた傷で、番としての絆が欲しいと言う思いから噛んでもらったものではない。  今、あの瞬間の自分に戻れるとしたら、どんな手段を使っても項を死守しただろう と、透明は嗚咽を漏らさないように歯を食いしばった。  そうすれば、この目の前のαに噛んでもらうことができたのに……と、後悔に涙を一筋流した。 END.  

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