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落ち穂拾い的な やっぱりここでも大神
うんざりするほどの広さを取った座敷に案内されて、出された饗膳に一瞥をくれながら大神は溜息を吐く。
「お待たせしてしまいましたね」
飽き飽きしたとでも言いたげな表情の大神にそう告げながら、黒い着物の男が深く頭を下げた。
「本日はお越しくださいましてありがとうござ 「挨拶はいい」
ごつごつとした手を振られて挨拶が途中で途切れたのを、黒い着物の男……黒手は苦笑でごまかす。
「必要なことは渡した書類に書いてある、それで十分だろう」
そう言って立ち上がろうとする気配を察知して黒手はさっと廊下に向けて視線を滑らせる。
「あい!」
「いらっちゃ いら、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませなのよ」
わぁっと声が上がって赤い着物の幼子達が座敷へと入り込んでくる。
厳めしい、明らかに一般人とは言い難い風体の大神に怯むことなくその前で正座して並ぶと、ぺこりと揃って頭を下げる。その様子は誰が見ても微笑ましいものだったが、大神の表情は動かない。
「どうか、幾ら鍛錬を積んでも披露する場のない小石達に御慈悲を」
「…………」
幾つもの幼い瞳に見つめられて、それでも表情を動かさなかった大神は呆れたようにもう一度溜息を吐いた。
ちょんちょんと舞を披露する姿は、さながら子雀が飛び跳ねているようだ と酒を飲みながら大神は思う。
「ご無理を言いました」
黒手は微苦笑を漏らしながら酒を注ぎ、懸命に踊る小石を眺める。
「ところで、御内儀様はご健勝でらっしゃいますか?」
「 ああ」
そっけない返事だと言うのに、黒手は嬉しそうに微笑んで返す。
「病気一つない。いつも通り元気にやっている」
「さようでございますか」
にこにことした笑みを崩さず赤い衣と扇を翻す様子を見るふりをしながら、「この度は誠にありがとうございました」と言葉を漏らした。
「オメガを思い通りにする薬があると言うことは話には聞いておりましたが、……まさか身内に被害者が出るとは……」
「……」
大神が黒手を見る目は厳しい。
その視線の含むものに気づき、黒手は恥じ入ったようにうなだれた。
「私共もそうしたくて形ばかりの捜索を行っていたのではありません。そう指示を受けてしまえばそれに従うしかないのです」
そう理由を告げても大神の硬質な視線は緩まない。
何も受け付けなさそうな瞳は、この『盤』から出て行ったΩを放置して事件に巻き込んだ責任を追及しているようでもある。
最終的に、薬を使っていた男はこの大神が捕らえてしかるべき対処を行ってはくれていたが、それがなければあのΩがどうなっていたかは……
最悪、男に唆されてこの場所のことを教えていたら……?
Ωしかいないここはどうなっていただろうか?
「タイミングとやらか」
「はい」
鼻で笑うような大神の言葉にも、黒手はただ頷くしかできない。
申し訳なさにうなだれる黒手に向けて溜息が吐かれ、その話はもういいとばかりに視線が動く。
「小石達、愛らしいでしょう? いかがでございますか? もう一人、番を持たれても?」
ほっぺを赤くしながら踊る小さな童子達を見て、大神は盛大に顔をしかめながら立ち上がり、悪趣味な物言いだとでも言いたげに黒手を一瞥する。
「十分間に合っている」
そう言ってすたすたと座敷を出ていく姿は迷いがない。
「あっ」
「おきゃくさま、かえってしまうん?」
「しまうのー?」
小石と呼ばれた小さな子供達がじゃれつくように大神に引っ付く。
回しきれない手を大神の足に回して引き留めようとする様は、おもちゃが欲しくて駄々をこねているように見える。
ともすれば薙ぎ払ってしまいそうな雰囲気だと言うのに、大神は何も言わずにその大きな体をかがめて踊りを見せた小石達の頭を撫でていく。
「上達したな」
短い一言だけだったが、小石達は嬉しそうにくふふと笑いを漏らしてぴょこぴょこと大神の周りを跳ね回る。
「ほめられたのよ」
「じょうたつしたのよ」
「わぁーい」
それだけで満足したのか小石達はそれ以上大神にまとわりつこうとはせずに離れていく。
「……可能な限りこちらも気を配るが……」
小さな子供の背中を見送りながら大神は硬い声を出す。
後ろに控えた黒手はまっすぐに唇を引き結び、その言葉に答えるように深く頭を下げた。
END.
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