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雪虫4 3
もしものために、瀬能が冗談めかして言ってくる去勢……って言うか、パイプカットを受けてしまおうかと思っているくらいだ。
オレの世界には、雪虫だけがいればいい。
「雪虫」
「なぁに?」
密着すると微か聞こえてくる鼓動の弱弱しさに不安になりながら、腕の中にすっぽりと入る雪虫を抱きしめる。
叶うなら、力いっぱい抱きしめたい。
叶うなら、思う存分むさぼりたい。
叶うなら、溶け合うくらい、お互いの体の境目がわからなくなるくらい交わり合って溶けて混ざって……
一つになれたらきっと、オレの胸の内を焼き続けている焦燥感は消えるんだろうけど。
「愛してる」
「んっ 雪虫も」
へへ とあどけなく返されて、オレは嬉しさに暴走しそうになるのをぐっと堪えながら雪虫の香りを肺いっぱいに吸い込んだ。
柔らかなショールを雪の結晶型のピンで留めて整えてやると、雪虫は嬉しそうだけれど少しすねたような顔をした。
そんな顔をされても、雪虫が匿われている研究所には夜にαがいてはいけないと言う規則があるから仕方ない。
瀬能先生の助手として出入りは認められているけれど、最低限守らなければならない部分を守らなかった場合のペナルティを考えると、黙って従うほかなくなる。
ちょいちょいと指先で触れた綺麗な雪の結晶のピンは、番になったのだし指輪でも……と思っていたが雪虫がアレルギーで指輪がつけられないから、その代わりとして購入したものだ。
冬に咲くすっきりとした甘すぎない花の匂いを思い起こさせるフェロモンと雪虫の名前にかけて、いいものが見つかったと誇らしく思っている。
雪虫も喜んでくれているようで、常に身に着けてくれているのが嬉しかった。
「明日、朝一番にくる。 それで、えーっと……明日は一日中いるから」
「ホント⁉」
オレの言葉にはっと両目が大きくなって、今にも宝石のような瞳が零れ落ちそうだ。
「う うん! 約束な?」
「約束ね?」
毎日顔は合わせてはいるけれど、どうしても仕事や大神に呼び出されたりで一日中って言うのは難しくて……
だから、一日中一緒にいられるって言うのは貴重な日だ。
スペシャルデーだ!
なぜなら……
「絶対、這ってでもくる」
甘い甘い、今にも触れたら落ちてしまいそうな果実のような……濃厚な匂いが雪虫からし始めているから だ。
発情期に入る手前の匂いだって言うのに、その香りだけでもうオレの理性はぐずぐずに近い。
平静を装えているのは飲み薬と貼薬と頓服を併用して、なんとか絞り出した根性で押さえているからだ。
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