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雪虫4 5

 相変わらずセキの熱量にくらべて大神は冷静で…… 「やだやだやだやだ! 一緒にいたいです!」 「仕事だ」  一言返して車にしがみつくセキを引き離す。 「俺のスーツケースはもう放り込みましたから!」 「降ろせ」 「なーんーでーでーすーかぁぁぁ!」  叫ぶセキに警備員のおっちゃんも戸惑いを隠せていないようだ。    って言うか、この時間におっさんが研究所にいるってことは泊まったってことか⁉ え⁉ それずるくない⁉ オレは毎日泣きながら自分の家に帰ってるって言うのに⁉  あれか、金か⁉ スポンサーとかなんかの権力か⁉ 「俺は大神さんとずっとイチャイチャしてたいんです! 大神さんの改造ちん〇んの肉よろ   もがっ」  素早い動きで大神がセキの口を塞ぐけれど、大声で叫ばれたプライベートな内容に警備員も気まずそうだ。  口を塞がれてもがもが言っていたセキだったが、その内もがもががもごもごになり、うんうんと頷く動作になってからは歓声を上げて大神に抱き着いている。  先ほどの大騒ぎの片鱗も見せないままに大神に抱き着く姿に……オレと視線を合わせた警備員は複雑な顔だ。  何を見せられているんだろう?  なんだアレ?  痴話……ゲンカ? 「なんなんだ?」  なんとも言えない表情でいると黒塗りの車が動き出して駐車し直している。  すると運転手の直江と目が合って……やっぱりこちらも微妙な顔をしていた。  開門の時間になって警備員に挨拶しながら入り、直江にも声をかける。  結局あの二人は建物の中に入って行ったっきりで出てこなくて……ナニしてるんだろうな、なんてのは思っちゃいけないことだろう。 「おはようございます、直江さん」 「うん、おはよう」  そう言いつつ直江はスケジュール帳をめくって眉間に皺を寄せている。 「泊まりだったんですか?」 「いや、朝早くに寄っただけだよ」 「ここって時間外に入れるもんなんですか?」 「はは」  むっとすねるように言ったオレの言葉に直江は軽く笑いを返すだけで、そうだ とも特別だ とも言わない。  とは言え大神がこの研究? 研究所に? 多額の寄付かなんかをしているのを知っている身としては、そう言う融通も効くんだろう。 「大神さん、これから仕事なんです?」 「うん、当分こっちに顔見せには来られないと思うから、何かあったら瀬能先生を頼るように」 「この前、海外にも行ってたのに……忙しいんですね」  その仕事の前にここに来たって言うことは、今度はセキを連れて行けないってことだ。オレなら幾ら仕事でも雪虫にそんな寂しい思いをさせるなんて絶対嫌だ。  

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