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雪虫4 9

 だって、オレ達これからえっ……ち、するんだぞ⁉ 「しずる? これ……」  床で突っ伏して動かないオレに、優しい雪虫は濡らしたタオルを差し出してくれる。  雪虫の握力じゃしっかりと絞り切れてなくて、点々と水滴が床に絵を描いていた。 「雪虫が、ふいたげる」  血にちょっとおっかなびっくりで手を伸ばすのは、雪虫にしてみたら勇気を振り絞った行動だろう。  手はタオルを絞ったために赤く色づいてしまっている。  水を触ったからか少し寒そうに身を縮めている雪虫は、普段なら絶対に着ない服を着て、雪虫なりにオレとの発情期を頑張ろうって意気込みが見える。  雪虫に……番にそこまでさせておいて、できないできない無理無理ばっかり考えている自分が情けなくなって、顔を上げてタオルを受け取った。  少ない人生経験だけれど、ずっと閉じ込められていた雪虫よりもオレの方がいろんな経験しているわけで、もっともっとしっかりしてなきゃならない立場のはずだ。  なのに、こうして雪虫に気を使わせてしまうなんて…… 「  ────っ 雪虫!」 「ひゃっ はいっ」 「オレっ雪虫のことが大好きでっ愛しててっ世界一雪虫のことが大事だから!」 「雪虫のせかいいち大事はしずるだよ!」 「っ! ぁ、りがとっ……だからっ……これから、雪虫を抱いて、いいかな?」  ぐいぐいと乱暴に鼻血をぬぐってまっすぐに雪虫を見ると、涼し気な冬の青さを湛えた瞳が柔らかくオレを見ている。  見てくれている。  雪虫の瞳に、自分が写っている。  その多幸感をなんと言い表したらいいのか、オレは言葉を紡げないまま震えた。 「  しずるは、雪虫のつがいだから、雪虫のこといっぱい触れて、めでて、しずるのつがいなんだっていっぱいしるしつけて」 「っ!」  また誰かの入れ知恵かと思いつつも抗えるわけなんかない。 「いっぱい、印付ける。いっぱいマーキングして、雪虫がオレのだって何度でもしたい」 「いいよ」  雪虫は照れくさそうに首を少し傾げながら、もじもじとそうオレに許可を出してくれた。  ベッドの上に寝転んだ雪虫は今にも白いシーツに溶け込んでしまいそうだ。  横になった際にキャミソールがずり上がって薄い腹がちらりとそこから顔を覗かせると、そこにむしゃぶりつきたいと思ってしまう。  きっと甘いとわかっている。  きっとこれ以上ないくらい気持ちがいいんだと……  それをぐっと堪えて、柔らかく唇を落とすと、くすぐったかったのか「ひゃ」って言う小さな声が漏れた。  自分が雪虫に触れなければ起こらない反応なんだと思うと、頭の中がぐらぐらと回るような気分になってくる。

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