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雪虫4 19

 甘いけれどすっきりとした冬の花の香りを嗅ぎながら、ただただじっと抱きしめ合う。  雪虫の体のことを考えると、こうやって体の中にオレを受け入れてくれているだけで奇跡で、幸せなことなんだと噛みしめて泣きそうになった。  ゆっくり、ゆっくり、お互いの熱を確かめ合って、お互いの熱を絡め合って……  雪虫と溶け合うことができたらってずっと思っていたけれど、案外それはこう言うことかもしれないって、腕の中の小さなΩに微笑まれて思った。  首筋に手を当てて、やっぱり体温が高いと思う。 「ごめんな? 随分無理させたよな?」 「うぅん。しずる、気持ちよかった?」 「もちろん! めちゃくちゃ気持ちよかったし、幸せ」  脇に体温計を挟んでやりながら答えると、赤みの引かない顔で雪虫は嬉しそうに笑う。  そんな雪虫から漂ってくる匂いにはもう発情期特有の触れたら落ちるほど熟れたような甘ったるい香りは含まれていない。 「雪虫も、しあわせ」  むぎゅーっと抱きしめられて、発情期が終わってしまったわずかな落胆も吹き飛んでしまった。  きっと、他の番達の発情期から比べたらゆったりとして焦れるような、おままごとみたいなものなのだろうけれど、これがオレ達の発情期の過ごし方なんだと思えば胸が暖かくなる。 「やっぱり熱が出てきたな」  ぴぴ と鳴った体温計を見てみれば……いつも体温の低い雪虫にしてみたら高めだ。  最中もできるだけ休憩をとって、睡眠をとって、食事もとって……としていたけれど、それでも雪虫にしてみたらハードな日々だったんだろう。  ぎゅうっと胸の中に抱え込んで掛け布団を被る。  雪虫の発情期が終わってしまった今、終了の知らせを告げてしまうとこの二人だけの世界は崩れ去ってしまう。  このぬくもりを抱きながら眠ることができる贅沢を知ってしまって……  今、世界がここで終わればいいのに、なんてことを願った。  むつー……としている頬をうたに突かれて、邪険に振り払う。 「どうしたのよ、不機嫌そう」 「オレだって人間なんだからな、そう言う時だってあるよ」  つっけんどんに言うとさすがにうたも怯んだような顔をしてから、気まずそうにしている。 「そ……そう。セキもいないことだし、私で聞けることなら聞くけど……」  茶化してしまったのを悪いと思ったのかどうなのかは知らないが、うたはそう言うと隣の席に座った。  喋るような気分じゃなかったから、食堂はがら空きだから他所に行けとも言えたけれど……オレを気にかけてくれているんだってわかっているから邪険にできなくて、何も言わずに肩をすくめ返す。  

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