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雪虫4 25
耳元で尋ねられて思わず「わぁぁぁぁあ!」って声が出た。
オレの声に驚いたのか「きゃあああ」って応えるような悲鳴まで上がって、耳をキンキンと攻め立てる。
「耳いったぁい!」
「それはオレのセリフだろ!」
お互いに耳を押さえてうずくまってにらみ合ったが、結局埒が明かないのでアイコンタクトで水に流すことにして平静を装う。
オレの隣に腰を下ろしたうたは、長い腰まであるようなまーっすぐな黒髪を後ろへ払うようにしてから、「何かあった?」って尋ねてくる。
これはもう、うたの癖なんだろう。
おかん気質と言うか、ちょっと様子がおかしいところがあったら、まず話を聞こうとするところは、悪いとは言わないが苦手だった。
話して楽になる問題もあるだろうけれど、一人でじっくり考えないとな問題だってあるわけで。
なんでもかんでも口を出されたくない! ……って思うんだけど、現実問題、女の子にそこまで邪険なことは言えなくて、「うーん、仕事のことで」ってだけ返した。
「仕事……‼ あっのやくざ⁉ いい⁉ しずる! 幾ら金額を積まれたからって怪しいって思った仕事は絶対に引き受けちゃダメだからね!」
どうやら、仕事がなくてやることがないって話をしようとしたのに、うたは盛大に勘違いしたらしかった。
「あの男のことは本当に信用しちゃダメだからねっ! 幾ら外面が良くてもやくざなんだから、隙を見せたらどうなるか……」
「わ、わかってるよ」
それでジジィとババァは生きてるんかな? ってくらいぼこぼこにされていたしな。
「あんたがやくざの仲間になるって言うんなら、私容赦しないからね! もうこの研究所に足を踏み入れさせないんだから!」
「ならないって! ってか、それにしてもうたはちょっと過激すぎないか?」
ひく とうたの細くて白い 喉が攣れた。
それは隠しようもなく、やくざに何かされました って言っているようなものだ。
十把一絡げはよくないとわかってはいるはずなのに、それでもうたの警戒する職種の人間に関してはどうしてもそう考えてしまう。
「……まぁ、嫌うのもわかるけどさ。大神さんは実際、野良オメガを保護するためにいろいろしてたり、この研究所にも寄付してたりするんだからさ、そこら辺をちょっと考えて……」
「不良が、雨の日に犬を拾う理論でしょ!」
あー……普段悪い人間がいいことすると、すごくいい人に見えるとか言うアレ?
大神の人相風体行動がそんなもので相殺できるものではないのはわかっているから、反論せずに素直にうなずくだけにする。
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